ヒューマンインタフェース学会論文誌の Vol.20, No.1(2018年2月)から Vol.21, No.4(2019年 11 月)までに掲載された論文の中から、正会員、論文誌編集委員より推薦を受けた 13 編 について、論文賞審査委員会において関係者を排除した上で厳密に審査しました。その結果、 以下の 3 編が第 20 回論文賞として選定されました。 以下、論文誌の掲載順に受賞者と受賞理由を紹介します。

論文賞審査委員会委員長 高橋 信


黒田 嘉宏, 加藤 拓実, 吉元 俊輔, 大城 理(大阪大学) 『PupilShutter:瞳孔収縮による注釈提示システム』
ヒューマンインタフェース学会論文誌 Vol.20, No.2, pp.221-228
受賞理由:
随意的に瞳孔経を変化させることができる近見動作に着目し、随意的な瞳孔変化を検出することで入力を行うことができるシステムを構築し実際に評価実験まで行うことができている点が高く評価された。注視と近見動作に伴う瞳孔収縮を組み合わせることにより、従来法では困難であったMidas touch problemを解決できるユーザインタフェースを提案している点でその独創性が高く評価される。現状ではやや精度が低い面もあるが、これに関しては瞳孔変化検出アルゴリズムの向上や近見動作という普段行わない動作の習熟により、精度向上が見込まれる。更に近見動作はドラッグ操作といったこれまでの眼球運動では実現が難しかった入力もできる可能性があることから、将来性も含めて高く評価され、実用化されれば身体麻痺患者の意思入力手段として大いに期待できる。
江口 眞人(NTT), 三好 匠, 新津 善弘(芝浦工業大学), 山崎 達也(新潟大学), 大野 健彦(NTTテクノクロス) 『一時的UXを向上させ利用意向度を高める歩きスマホ防止アプリケーション』
ヒューマンインタフェース学会論文誌 Vol.20, No.2, pp.243-254
受賞理由:
歩きスマホの問題はユーザが多く事故率も高い重要な社会問題である。本論文ではこの一般的な社会問題の解決策に取り組んでおり、歩行中の周辺危険状態を組み合わせることで、利用意欲や危険回避行動の誘発ができている点が高く評価された。危険なこと(歩きスマホ)は禁止すればよいという対策が多い中で、できるだけ利用を許容し、ユーザが歩行時に画面を注視しており、かつ進行方向に階段の段差や他の歩行者の存在を検知した危険な時のみ警告するという考え方は独創性のある提案であり高く評価できる。将来実用化に向けての開発において仕様は変わりうるが、本研究の成果が有益な学術的知見として利用できることが期待される。
川口 一画, 葛岡 英明(筑波大学), ドナルド マクミラン(ストックホルム大学) 『スマートスピーカーにおける注視の入出力を用いたインタラクションの効果』
ヒューマンインタフェース学会論文誌 Vol.21, No.3, pp.269-278
受賞理由:
スマートスピーカーが普及する中で、その対話の不自然さを解決する方法を社会学的見地から提案して検証している論文である。対話における視線の効果は広く研究されているが、そこで得られた知見を現代的な環境で活かし、普及をみせているスマートスピーカーの操作性・利便性を高める提案ができているという点が高く評価された。社会学的知見に基づき、ユーザと人工物とのインタラクションにおいて「注視」に着目した点は独創的である。単にウェイクワードをユーザによる注視と置き換えるだけでなく、システム側からの注視も含めた相互注視とすることにより、操作性の向上や興味・関心の喚起を促せることを実験により示した点が高く評価された。