先日2025年の9月10日から3日間、ヒューマンインタフェースシンポジウム2025が開催されました。素晴らしい会を準備してくださった大会長はじめ運営スタッフの皆様に、この場で御礼申し上げます。

 

ただ、私にとっては苦い経験となりました。とある討論発表(口頭発表)セッションの座長を担当したのですが、そこでいろいろと至らないことを起こしてしまいました。発表者に許可を得たので、エピソードを書かせていただきます。

 

私もさすがに研究活動を始めてから長いので、座長やその辺の仕切りくらいは問題なくこなします。こなします、というかこなせると思っていました。座長の役割はまずはタイムマネジメント。スケジュール通りセッションを運営することです。そしてもう一つ重要なことは、発表者と参加者にとっての利益を最大化することです。発表者にとっては「この学会で発表して良かったな。また発表したいな」と思えるように、フロアからいいコメントが出るような場をどう作るか、ということが座長には求められます。これはもちろん、ぬるいコメントをしたり傷を舐めあうようなコメントをするというものではありません。そして発表を聞いている側にとっても「勉強になったな」というような場を提供できることを目指さなければなりません。もちろん、座長一人で全てコントロールできるわけではないのですが、なるべくそういうものを目指すのが座長だということです。

 

で、セッションの最後に私の国際性(?)の低さが問題になるシーンがありました。セッション最後の発表は演題以外、全て英語での発表だったのです。本来なら英語でプレゼン、英語で質疑応答、問題なくこなせなければなりません。なぜなら私は座長だから。でも、正直申しまして、専門分野外の発表でネイティブの英語話者の発表に対応するのはちょっと難しくて。さすがに提示されたスライドの英文を読んでそれなりに理解することはできます。私でも。でも、日本語でも専門分野外の研究の対応って難しくないですか!?私だけですか!?……そうですか。すみませんでした。いや、それなりに普段は対応できるんですよ。信じてもらえないかもしれませんが。

 

発表が終わり、まずは発表者に対して日本語でやりとりできるかどうか、確認をしました。さすがにそこは英語で。で、結果的に日本語でのやり取りだとわからないことがあるので、英語で質疑応答をするということになりました。この時点で私の頭の中ではフルスロットルでいくつかのことを同時並行で考えなければならなくなっていました。

 

脳内岡A「誰かいい質問してくれよ?この発表内容(とても良かった)なら普通は質問がでるはず」
脳内岡B「いや、でも、もし質問が出なかったら……?」
脳内岡C「こういうことはよくあるよ。座長が質問してるうちに他に人の質問が出るよ。まあ私が英語で質問するというハードルはあるが?」

 

という感じで私の脳内MAGIシステムによる緊急会議が開かれまして、結果として「とりあえず様子見ましょう」ということになりました。

 

まずは  Do you have any questions? とフロアに投げかけます。そしてしばらく待ちます。見渡します。もう少し待ちます。まさかの一番危惧していた挙手なしパターン。ここは座長として、というよりは研究者として発表を聞いていて疑問に思った点を質問。たどたどしい英語ですが。細かいやり取りは覚えていませんが、なるほど、という回答をいただきました。

 

そして再び Any questions?  とフロアに投げかけます。

 

フロアを見渡します。気のせいか目を逸らされるんですよ。大きな声では言えないですが、日本人って、英語苦手すぎじゃないですか? 繰り返し書いておきますが、研究そのものも発表もすごく良かったんですよ。

 

脳内MAGIシステムで緊急会議。どうする?座長やで?でも専門外のことに対する質問ってそれが妥当な質問かどうか、自信なくない?いや、そういう状況下でも発表者・参加者の人にとってメリットがある質問ってあるやん?え?方法の確認とかそういう無難なやつ?いや、それは時間の無駄。発表者にメリットがないでしょ?もっと発表者にメリットのある質問よ! などと脳内の3人が揉め始めたタイミングで、もうだめだ、流れを変えよう、と決心し、

 

Any questions? It’s a chance!

 

とフロアに呼びかけました。「質問するチャンスですよ?」って。数秒待ちます。まさかの変化なし。状況変わらず。いや、言い訳なんですけど、これ過去に国際会議で座長したときに(なんと国際会議のセッションのchairをしたことがあるのです)、同じフレーズで対応したことがありまして。海外の人にはまあまあウケたんですよ。で「じゃあしょうがないなー」って感じでそこから質問がたくさん出たんです。そのときは。まさか日本でこんなにエゲツないスベり方するとか思わないじゃないですか。

 

そうするうちに東工大の中谷先生が質問され、そこからいくつかの意義ある質疑応答が。本当に良かった。色んな意味で。中谷先生最高。でも、中谷先生だけじゃなく、もっとフロアからの質問を引き出したいんです。一応座長なので。

 

そこでフロアに対して呼びかけました。

 

You can ask some questions in Japanese. Dr. Nakatani translates to English.

 

中谷先生、めっちゃびくりされてました。そりゃそうですよね。すみません。勝手に使ってしまって。でも、ここで私の英語で発表者に迷惑をかけるより、全体のメリットを優先したかったんです。というわけでそこから質疑応答がいくつかなされました。ありがとう、中谷先生。

 

そうするうちに終了時間が迫ってきました。簡単な質問ならあとひとつくらいできますよ、的なあの感じです。一度空気が落ち着いてしまったので、もう中谷カードは切れません。どうしよう。ここで終わろうか。いや、発表者にとってのメリットを考えなければ。もう一度フロアを見渡します。今度は目が合いました。

 

Dr. Karikawa, do you have a question?

 

当てていくスタイルで。中谷先生以上に驚いていた狩川先生(東北大)でしたが、意義のある質問をされていました。さすが狩川先生。もっと早く自ら手をあげてください。

 

そんなこんなでなんとかセッションを終えることができました。終わるなり、発表者のところに向かい、自分のマネジメントの至らなさをお詫びしつつ、このエピソードを学会ウェブサイトで公表していいですか、とお願いをしてご快諾いただき、今日ここに筆をとらせていただいた次第です。

 

今回の国際度:★★☆☆☆
今回の反省度:★★★★★