私が参加したClosing the Gap というカンファレンスはコミュニケーションに障害のある人のための支援技術の利用や教育・評価をテーマとして取り扱うカンファレンスです。障害のある子どもの保護者が中心となって設立された団体主催のカンファレンスで、今回は43回目の大会でした。年1回の大会なので40年以上も前にこのような会ができていたことに感激します。誰かが話しているのを偶然に聞いたところによると、今年の参加者数はだいたい1100人だったそうです。参加したセッションで職種を聞かれるシーンが多かったのですが、私の観測範囲では言語聴覚士(Speech  Therapist: ST)の人が多く、その影響か女性が圧倒的に多かったです。

 

このカンファレンスはいわゆる学会のイメージとは異なり、何件かの研究発表を組み合わせたセッションではなくて、だいたい1時間程度のコマで開発者や実践者、そして研究者が自分たちの取り組みや成果を発表するという形式でした。自由形式のオーガナイズドセッションという感じです。そのなかでも聞き手参加型のセッションは正直言って英語がわからないところが多いですし、なんか自分が言いたいことの1/3の純情な感情も伝わらないので、ずっと脂汗が出ている状態でした。いや本当は1/3よりもっと伝わっていません。見栄を張ってしまいました。でも、聞く分についてはそれなりにその分野の知識はあるので、頭の中で情報を繋ぎながら話を聞くとそれなりに理解はできましたし、正直言って自分の方が詳しいところもあり、その辺はちゃんと自分で研究していることのアドバンテージがあるなと思いました。自分の英語レベルの低さを嘆いてばかりいてもしょうがないので、自分の興味のあるところについてはたどたどしい英語で色々と喰らいついて質問して色々と学ぶことはありました。付き合ってくれた人、ありがとう。感謝永遠に。

 

せっかくアメリカまで来たので、全てのことをチャンスと捉えてチャレンジするしかありません。「チャンスの神様は前髪しかない」。私の好きな言葉です。この諺はギリシャ神話の「好機の神、カイロス」が前髪フサフサで後髪ツルツルだったことに由来するようで、来たときに掴みに行かなければ、後から掴みに行っても掴める髪の毛がない(だからチャンスは来たときに掴まないといけない)、ということらしいです。カイロスも大変ですよね。カイロスからしたら近づいてきた奴らにいきなり虎の子の前髪を掴まれるわけで。私がカイロスだったら暴れます。

 

話が逸れまくったので、元に戻しますね。チャンスは来たときにつかみにいかないとダメという話です。会場となっているホテルに宿泊していたので、毎朝の朝食会場では近くに座っていた同じ参加者に声を掛けてみました。2日目、3日目ともなると、前日のセミナーで話した人や、朝食のときに会話した人と顔見知りになるわけで、それなりに「今日もまた会ったね〜」的な会話になるわけです。一瞬これって「Yo, man!?」とか声かけするシーンなのかな?とか思ったのですが、自分の中のもう一人の自分(偽スーパーエゴ)が「やめとけ」というのでやめておきました。というわけで結構無難な会話に始終してしまいました。とはいえ、英語能力が高くないのでそこまで会話を深められないのですが。でもまあ、お互い何を専門にしてるとか、どういう興味でカンファレンスに参加してるとか、どこから来たかとか、まあそういう話はするわけです。これを国際化と言わずして、何を国際化と言おうか。許してくれーや。

 

で、肝心のカンファレンスの内容を語れよって話ですよね。私の観測範囲でのここ10年の傾向ですが、コミュニケーションエイドは製品は既にたくさん出揃っていて、それぞれ少しずつアップデートしているものの、新製品やコンセプトとして新しいものはあまり出てきてないなという印象です。そのなかで二つあった面白かったものを紹介します。

 

ひとつは早稲田大学の巖淵先生、東京大学の中邑先生、赤松先生が発表されていたFace Switch(顔スイッチ)iOAKです。え、日本人かよ。アメリカのカンファレンスなのに。いや、でもいい研究に国境は関係ないのです。実はこのメンバーは私の元上司と同僚なので身内ということになりますが、そういうのを差し引いても類を見ないオリジナルな支援技術だと思います。「顔スイッチ」はiOSアプリで、iPhoneやiPadのカメラを使い、写った顔の動きを拾ってON/OFFのBluetoothスイッチにできるものです。スイッチデバイスというのは特に肢体不自由のある人(そして知的障害が重複している人は特に)にとって有効な支援技術なんです。たとえば、手や指をうまく動かせない人でも、身体の一部を少しだけ動かすといったわずかな動きならできることがあります。その「できる動き」を拾って、電気のスイッチのような「オン・オフの信号」に変えてくれるのがスイッチデバイスです。自分が動いた結果として音楽が流れたり、画面が変わったり、おもちゃが動いたりすると、「自分がやったから、世界が変わった」という感覚が生まれます。これは、重度のコミュニケーション障害のある人にとって、因果関係の理解や主体性を育てるうえで、とても大きな意味を持ちます。

 

iOAKは、顔ではなく身体動作をカメラで拾ってスイッチに変えてくれることができます。それだけじゃなくて、このインタフェースが面白いのは、モーションヒストリー(画像を重ねて記録し、変化部位を検出する)をとることで、ゆっくりでわずかな動きを拾って入力操作に利用できることです。これは寝たきりの状態にある人のスイッチデバイスとしてすごく有効な機能です。重度・重複障害のある人の「反応の変化」や「随意的な動き」を、特別なセンサーや高価な機器を使わずに、身近なデバイスで記録したりスイッチ操作に活用できるというのが、いいですね。

 

もうひとつ印象深かったのはMorphicというアプリケーションです。こちらを開発しているのはDr. Gregg Vanderheiden。Vanderheiden先生は障害支援技術分野のレジェンドで、ウェブアクセシビリティのガイドラインを世界で最初に作った人です。なんと先に登場した巖淵先生と中邑先生の昔からのお知り合いということで、自己紹介させてもらい、色々とお話しすることができました。1/3も伝えられませんでしたが。

 

で、Morphicですよ。これはWebサイトに後付けで設置できるアクセシビリティ用ウィジェットです。テキスト読み上げ、コントラストや色調の変更、文字サイズ拡大、キーボード操作サポートなど数十のアクセシビリティ機能をWindowsとMacで後付けで簡単に使えるようにしてくれます。視覚障害・加齢による知覚機能低下・色覚多様性・学習障害など複数のプリセットプロファイルもあり、至れり尽くせりな感じです。しかもなんと、今後はAndroidやChromebookなどにも対応するみたいで、どんなデバイスでも無料で簡単に後付けでアクセシブルにできるというものでした。しかも無料。やばい。ワシは業者の回しもんか、という説明をしてしまいました。ヒューマンインタフェース学会のWebサイト上での連載ですからね。インタフェースの話もしておこうと思いまして…。

 

そのあと、ミネソタ大のDr. Mark Mizukoも紹介していただき、Mizuko先生にはディナーまでご馳走になってしまいました。Mizuko先生はコミュニケーションに障害がある人のための支援技術のの利用とその効果について研究されてきたこの分野を代表する研究者の一人です。ディナーなんてじっくりと話す機会な訳ですから、こんな素敵な環境はないのですが、自分の研究についてじっくりと話すこともできず、自分の住んでいる街や職場の話をしてなんとなく時間を過ごしてしまいました。バカバカバカ、ワシのバカ。

 

しかしまあ、完全に他力本願で乗っかってるだけなのに、どんどんレジェンド級の先生方と話ができる幸運。ラッキーすぎます。本当にありがとうございます。全方位に頭を下げております。しかしそのぶん自分の英語力のなさで研究の議論をガッツリとできなかった事を本当に残念に思います from the bottom of my heart。英語、頑張って勉強しよう。本当に。海外に行くたびに「絶対英語を勉強するぞ!!!!」と誓ってモチベーションMaxになるのですが、大体数ヶ月で萎んでしまいます。今回は何ヶ月もつだろうか…

 

国際度:★★★☆☆
前髪度:★★★★☆
縁度 :★★★★★