私はヒューマンインタフェース学会で国際リエゾン委員長を担当しているのですが、同時にコラボレーション基盤専門委員会(SIG-COASTER)の委員長も担当しています。このSIG-COASTERでは研究会や学会で各地に行くたびに、その土地ならではのインタフェースを探す「まちまーい」という企画イベントをしています。インタフェースというのは機能性で構造ができあがるということがよくあるのですが、ここでいう機能性というのは単純に「人間」のみをベースとしているわけではなく、「人間の生活」もベースになるわけです。そしてその人間の生活は文化・風土によって異なるということを考えれば、その土地に応じたインタフェースというものも存在して当然ということになります。ですから、行く先々で見かけたインタフェースからその土地の文化や生活に想いを馳せるというのはインタフェース研究において重要なことであり、楽しいことなのです。
で、前置きが長くなりましたが先日行ってきたアメリカはミネソタ州のミネアポリスで見かけたインタフェースについて勝手に報告いたします。読者の需要?そんなものは知りません。書きたいことを書き、言いたいことを言う。それがこのコラムです。何せお金を1円ももらってないですし、むしろ学会年会費を払ってるわけなので。ん?いま気づきました。私はお金を払ってコラムを書いている。なんてクレイジーなんだ。
さて、話を戻しましょう。ミネアポリスで見かけたインタフェースです。
【「誰のためのデザイン?」読んだことある?】
インタフェース関連の研究者なら誰もが一度は読んだことのある「誰のためのデザイン?(原題:The Design of Everyday Things)」。世界中でバカ売れしましたよね。インタフェースの研究は「誰のためのデザイン?」前か後かで大きく変わったのではないかと私は勝手に思っています。その著者、ドナルド・ノーマンのいる国。それがアメリカです。そのアメリカで、このデザインは何?誰がデザインしたの?「誰のためのデザイン?」後、なんてなかったのではないか?と私に思わせるに至ったホテルのシャワーハンドルからまずはスタートしたいと思います。結局、見ただけでは使い方がよく分からず、皆さんの想像通りビシャビシャになりました。

【車社会で歩道や横断歩道がない】
さすがアメリカ。カンファレンス会場(ホテル)を出て周囲を歩いてみましたが、車社会すぎて(?)人が歩くということを想定されていないのではないか?と思いました。まず歩道がない。どこにもない。構造的には、土の植え込み→土と道路のコンクリートの仕切り(約30cm)→道路。どこを歩けと?
車で少し離れた位置に連れて行ってもらったところでようやく歩道を発見。歩道なんですけど、敷地内を移動するためのプライベート歩道みたいな感じで、道路と建物の間に当たり前のように歩道がある、というものではなかったです。そしてこの画像をみてください、この横断歩道を。横断歩道ってこんなんでいいの?まぁ、横断できたらいいのかもしれませんが。規格とかないの?

【ワイルドターキー】
道に歩道は見つからないのですが、道端に普通に野生の七面鳥はいます。まさにワイルドターキー。なんで?なんで普通に野生のターキーがいるの?
人間が わしらの後から 来たんじゃい
というターキー心の俳句が聞こえた気がしました。アーバンターキー、恐るべし。ていうか、ターキーはインタフェースじゃないけどね。

【徹底したエラープルーフ】
エラープルーフ(error proof)というのは、どんなに想定外の誤った操作をしても事故や危険な状態にならないための仕組みのことです。昔はfool (愚か者)proof(〜に耐えるもの)と呼ばれていました。フールいう言葉がよくないということでエラープルーフと呼ばれるようになったみたいですね。こんな説明、ヒューマンインタフェース学会員の皆様は「知っとるわ!」と思われるかも知れませんが、このコラムは学会員以外の方にも読んでいただくことを想定しておりますので、こういう用語の説明は積極的に入れさせていただく所存です。
で、閑話休題。横断歩道があれだけ適当なのに、エラープルーフはしっかりしてるなぁー、と思うようなインタフェースがありました。写真に示したこの標識、よく見ると金属のポールの根本が太いバネなんです。つまり、多少ぶつかってもボヨヨーンって倒れてまた元の状態に戻る。ぶつからないように気をつけてもらうんじゃなくて、ぶつかられることを前提としてデザインされている。こういうのは僕の大好物です。見つけたとき、興奮しました。日本ならポールの足元をコンクリで固めてるんじゃないかと思います。



【有り余るスペース】
狭小住宅、省スペース設計、高密度利用、ミニマルデザイン、といった言葉に表されるように、日本にはスペースを有効利用することを善とする文化がありますよね。アメリカ、その対局の国かも知れません。この写真見て。某ハンバーガーショップのレストルーム。マキシマルデザイン?こんなに広いのに便器1つ。いや、隣にもうひとつ男性用小便器があるけども。このスペースを何に使えと?12畳くらいある。とりあえず踊っとく?なお、男女兼用。ドア入り口にひとつ、鍵もひとつなので、これで「1人用」なようです。まあ、便器一つしかないしね。中で順番待ちとか無理ですよね。
もちろん、例えばこういう空間は車いすユーザーには特に必要で、便利だと思います。ただ、それならトイレの入り口も広げようよ?トイレの入り口は普通サイズの開き扉なんです。ノブ握って回すタイプの。全く謎のままでした。

【車いすシンボルから歴史に想いを馳せる】
翌朝用のサンドを買おうと某ブウェイに行って見つけました。バリアフリーにそれなりに関わってきたつもりでしたが、不勉強で、このシンボルを見たのは初めてでした。


何これ?ダイナミックな車いす。自ら漕ぎますって感じがします。でもまあ、よく考えると確かに車いすシンボルって静的ですよね。これってテーブルにステッカーが貼られているということは、アメリカではこちらが主流なのでしょうか。って思って調べてみたら、意外なことがわかりました。
https://en.wikipedia.org/wiki/International_Symbol_of_Access
上記はウィキペディアの説明ページです。
2010年に始まったアクセシブル・アイコン・プロジェクトというアクションの中で、従来の車いすシンボルが古くて固いという理由から新たなものが提案されたそうです。それがこのダイナミックな車いすシンボル。でも、これに対する反対意見もあったようです。ダイナミックにすることにより、車いすを利用しない障害のある人や手で漕ぐタイプの車いすを利用しない人について誤解を与えるのではないかという懸念に由来するようです。それだったら、抽象度の高いこれまでの車いすシンボルの方が良いのでは?ということで、国として正式な採用にはならなかったようです。一般的にあまり知られてないのではないかと思うのですが、車いすのシンボルって、車いすユーザーを指すのではなく、バリアフリーに対応していますよ、という意図の伝達のためのシンボルで、肢体不自由に限らず他の障害に対しても使われるんですよね。
なるほど。勉強になりました。ちなみにお手元のPCやMacやiOSやAndroidの機器で「くるまいす」という言葉を変換してみてください。街でよく見かけるいわゆる車いすマーク以外にも♿️が表示されるはずです。Emojiに採用され、Unicodeにも入っているようです。
国際化というのは多様な文化を知ることなんだろうなぁと思いました。
国際度:★★☆☆☆
インタフェース度:★★★★☆
七面鳥:★☆☆☆☆