小林 真 (筑波技術大学)
右手でスロットルを閉じ、左手でクラッチレバーを握ると同時に左足を押し込んでギアを落とす。間髪入れずに軽く回転数を上げ、下がるタイミングでクラッチをつなぐ。エンジンブレーキの音と前に押される力を感じながら減速、同じ操作をリズミカルに繰り返す。4、3、2――。
すっかり年配者の乗り物になってしまったバイクですが、私も3気筒のストリートファイター系に跨っています。何が好きで乗り続けているのかと尋ねられたら、今なら「シフトダウンが好きなので。」と答えるでしょう。国内市場のクルマはほぼオートマチックになってしまいましたが、バイクはスクーター以外のマニュアル車が健在です。クルマもバイクも妙に左半身が忙しいシフトチェンジは、オートマにはない「操ってる感」を与えてくれます。特にシフトダウンはタイミングを合わせてスムーズな挙動にコントロールするところが楽しいのです。コーナリングを語れるほど技術はないし、加速に痺れるほど若くもない自分にとって、シフトダウン操作とそのフィーリングは、バイクに乗るひとつの理由になっています。
スタンドがなければ倒れてしまうこの不安定な乗り物に、興味を持つようになったのは高校生の頃でしょうか。父親のスーパーカブで遠出を楽しんでいました。3速しかないのですが、自転車と違って足で行うシフトチェンジが新鮮だったのを覚えています。その後、何台か乗り継いできましたが、2ストオフ車のピーキーな感じ、リッターマルチの重量感、Vツインの独特な鼓動…それぞれの車種の乗り味と、シフトダウンの感覚はなんとなく覚えています。
最近は次男も乗るようになり、彼の鮮やかなオレンジ色のバイクと出かけることもあります。先日「シフトダウンって、いいよねぇ~。」とつぶやいてみたところ、しばらく考えてから同意してくれました。
少し嬉しかったです。そう、トップギヤで走り続けるのも爽快ですが、シフトダウンは、楽しいのです。