谷川 由紀子(NEC)
会社に行って仕事をするのが基本の生活から、家で会社につないで仕事をするのが基本の生活に変わって1年半以上になる。
以前は、たまに風邪を引いて寝込んだりしたときに、家の窓から刻々と色を落としていく夕暮れ時の空を眺めながら、こんな情景を見ないで過ごすなんて(大げさだけど人生で)損をしているような気がする、もっと家に居たいなぁ、などと、なんとなく考えていた。でも、退職するまで不可能と思っていたそんな生活が、自分の意思とは関係なしに、今は現実のものになっている。
もっとプラクティカルな面でも、例えば荷物をいつでも受け取れる。ガスの点検やちょっとした家のメンテナンスなど、今までは土曜日にお願いするか、家族の誰かが休暇にしないと対応できなかったことも、スケジュール調整が楽々できる。テレワークっていいな、嬉しい働き方だと素直に思う。そして、コロナが落ち着いても、この便利さや嬉しさといった体験はきっと忘れられない。だから、漏れなく満員電車での通勤もついてくる出社前提の働き方にはもう戻りたくないなぁ…と感じる今日この頃だ。
ところで、テレワーク生活が始まってから、在宅ならではのある体験に遭遇した。ニュースなどでちょくちょく耳にするあの体験である。
昨年の12月のある日のこと。テレワーク中にインターフォンが鳴って出てみると、とび職の服装をした若者が玄関口に立っていた。近所で新築やらリフォームやらの工事中のお宅が数件あったので、その関係者が挨拶か何かのお知らせに来たのかなと思っていたところ、やはり「裏の家の工事関係者」で、我が家の屋根に錆びているところがあるようだから、ちゃんと調べて直した方がいいと言う。家の中のことはともかく外回りのことは自信がない。こういう時はやっぱり夫だ!と、同じくテレワーク中の夫を呼び、直接話してもらうことにした。
しばらく夫と話した後、若者は帰っていった。夫曰く「ここから屋根に上がって確認して欲しいって頼んだんだけど、無理って言うから」。なんだか釈然とせず、いつもお願いしている工務店に連絡すると、あっさり「詐欺ですね。最近、お宅の近く多いみたいです」とのこと。あぁやっぱり。おぉこれが噂の。と、納得するやら感心するやら、でも実害がなかったせいか不思議と怒りの湧いてこない顛末となった。
それで、詐欺のネタにされた我が家の屋根だが、その後、念のため工務店にチェックしてもらったところ、一部カビて苔が生えているところが見つかり(工務店は、半信半疑ながらちゃんと屋根に上って写真を撮ってきてくれました)、塗装工事をする運びとなった。若者の嘘(詐欺未遂)から出た誠となったわけだが、我が家的には大事になる前に屋根をメンテナンスでき、工務店には思わぬ仕事が舞い込み、で、思いがけず悪くない契機になった。
とはいえ、今回はたまたま結果オーライだったけれど、状況が少し違っていたら自分も引っかかってしまったかも…と、怖さも実感した初めての体験だった。