小林 郁央(オーバルプラン)

近年SNSや動画共有など限りなくリアルタイムに近いコミュニケーションメディアが広がり、またマスコミでしかハンドリングできなかった動画ムービーもネット上で容易に扱えるメディアツールとして一般化してきている。
“歌は世に連れ、世は歌に連れ”とその昔は流行歌が世相を表したもの(昭和世代しか通じない言葉で恐縮・・・)だが、今はネットメディアの流行りが世相を象徴しているかのようだ。

 

そんなネット時代の潮流にも少なからず影響されながら、HI学会(ヒューマンインタフェース学会)も今日を迎えている。HI学会設立時からの会誌とホームページの変遷(と言うほど長い歴史では無いが)を辿りつつ、ネット世界の動向と一緒にHI学会のメディア&ツールのこれからを粗っぽく俯瞰してみた。

学術論文や多様な研究活動の全てを網羅した、学会を象徴するメディアがHI学会誌だった。学会設立前のオレンジ色を踏襲した背表紙がずらりと書棚に並び、HI学会を象徴する存在となっていった。

 

やがてインターネットの普及と共に、論文やインフォメーションの類がホームページやメール、アーカイブサイトへと段階的に移行され、身軽になった学会誌のリニューアル企画が始まった。ネット全盛の時代にあっても印刷媒体として生き残り、むしろPCやスマホの中に埋没すること無く、リアルに存在する紙媒体だからこそ持てる魅力は?との観点から、特集記事に特化した、カラー雑誌:マガジンスタイルへの転換がなされた。

 

一方学会誌から移動した情報で満載となったホームページも、リニューアルの時期を迎えながら長年その機会が窺われていたが、遂に2020年時の会長下田先生の力業で、Word Pressベースのスマートなホームページへと変身を遂げた。(ちなみに下田先生は学会設立時の学会誌編集を担われ、ホームページ初代は加藤博一先生、第2世代は旭敏之氏の編集でした)
同時並行的にメールベースのニュースレターも新フォーマットに更新され、新学会誌や新ホームページとの連携が図られるようになった。

 

と、ここまでが1999年学会発足から20数年のめちゃくちゃ粗っぽい変遷だが、俯瞰図に見るように、情報の片方向発信×累積重視の学会誌から、段階的にフロー(流動性)と多様性へのメディア進化が見られた20年と言えるだろう。

 

さて次なるHI学会のメディア&ツールへの期待は・・・

 

HIシンポジウムは学会設立以前からHI研究の交流場として親しまれてきた。学会の前身であるSICE計測自動制御学会の部会だった頃に、既にヒューマンインタフェースを冠した人気のシンポジウムで、論文発表やポスター発表は、リアルな社交空間だからこそのヒューマンな盛り上がりがあるから、圧倒的な人気を獲得してきたのだ。

 

そのHIシンポジウムも、コロナ禍を受けて一昨年、昨年とリアル空間での集会は中止となった。しかし幸いにも、全国規模でストレス無くディスカッションできる環境が容易に手に入る時代となり、ネット経由での実施となった。(世界中の学術会議がネットによって救われたことは、不幸中の幸いだった)そんなネット会議をコロナ後もニュースタンダードとして利用していく価値は大いに有る。シンポジウムの開催場所へ行くことなく、いつでも(特にこれが嬉しい)どこからでもシンポジウムに参加できるのは、全ての会員にとって嬉しいことだ。

 

一方リアルはネットでは得にくいワイガヤ性、その場でしか味わえない盛り上がりの魅力があって、シンポジウムには絶対欠かせない側面だ。恐らくリアルな空間での界隈性を呼び起こす気運が、ヒューマンインタフェースという視点を学問的な方向へと高め、今日の学会まで育ててきた原動力なのだと思う。

 

ということで、SNSやNetworkToolを活用すると同時に、リアルとネットを相互連携して、ヒューマンインタフェースならではの高揚感が実感できる、新しいシンポジウムモデルが創出されていくことを、期待したい。そこには、上下双方向の流れと、HPや学会誌も連携するメディア間の横方向の流れが交差する、ダイナミックな・・・

 

HIジジイの2022年 年頭の俯瞰仰望でした。