角 康之(はこだて未来大学)

 

国公立大学に勤務する教員の皆さんにはお馴染みの1月中旬の土日に実施される「大学入学共通テスト」、いつもだったら監督業務で虚無な時間を過ごすわけですが、それももう飽きたので、今年は受験してみました(笑)最初に断っておきますが、大学入試センターから任命された特殊な業務としてといったわけではなく、単に個人的な遊びとして受けました。もうこの段階で「けしからん!」という声が聞こえてきそうで怖いですが、怒らずにちょっとお付き合いください。

 

私が現役受験生の時に受けたのは1986年高校3年生の時の共通一次試験1回だけだったのですが、その時のことはほとんど記憶にありません。どこで受けたのかすら覚えてません。その後、大学教員になって20年近く、多分10回以上は監督業務をしていますが、そろそろ受けてみるかなあと思った次第です。特に深い理由はありません。力試しと言うか、まあテストって割と単純明快なエンターテインメントですよね。自分も1回くらい受けてみたいなあと思ったのです。

 

力試しだけだったら過去問などを使って勝手にやってみたらいいじゃないの、と言われそうですが、遊びは真面目にやらないとつまらないですよね。と言うわけで、まずはどうやって受験手続をするんだろうというところから始めます。その点は大学教員をしていてラッキーでした。事務局に行ってみたら大学入学共通テストの受験案内の冊子を簡単に入手することができました。「ちょっと見てみたくて、ははは」と言って1冊もらいました。出願期間は9月27日から10月7日まで。出願費用は18,800円でした。2日間みっちり遊べることを考えると大人の私たちには安いもんですね。しかし!それだけじゃすまないのです。出願には出願資格の証明書類を提出しなくてはいけないのです。私の場合は高校の卒業証明書が必要でした。35年も前に卒業した高校の卒業証明書ですよ。それも遠く離れた故郷の高校です。郵送で発行してもらったのですが、もう締切ぎりぎりで焦りましたね。「大学院の博士課程まで修了しているのに、なんで高校の卒業証明書が必要なんだよ。。。」と思いましたが、まあそれを言うなら「なんで受けるんだよ」ですよね。はい、すみません。ちなみに、卒業証明書を発行してもらうついでに成績証明書の発行も依頼したのですが、成績データは既に破棄されてしまっていました。そういうものなのですね。一つ学びました。

 

力試しするんだからちょっとは勉強したかったのですが、まあ例のごとく、年末年始は忙しいですよね。卒研指導とか定期試験とか。見事なほどの「ノー勉」で当日を迎えました。ところで試験に持ち込めるものは厳しく制限されています。毎年のように試験監督として読み上げているのでそれはよくわかっています。久しぶりに普通の腕時計や鉛筆を用意しました。それと老眼鏡も忘れずに。

 

試験会場が勤務地の未来大になっちゃったらややこしいなあと心配していたのですが、幸い別の大学(北海道大学函館キャンパス)になって助かりました。北大では2日連続で同じ人が監督業務していました。未来大では1日だけで許してもらえるので恵まれているんですね。受験会場に入ったらたまたま私の席は部屋の一番前の角でした。当たり前ですが、私以外はみんな、自分の子供と同じような年頃の若者たちです。誰も話しかけてきませんでしたが「え、なに?あのおじさん!」って思ってたでしょうね。

 

試験が始まってしまえば、結構集中できて面白かったです。監督業務の際にいつも「トラブルなく終わってくれー」と祈りながら配っていたあのICプレイヤで英語リスニングも体験しました。よくできてますね。導入当時は持ち帰ることができていたように記憶していますが、今は回収されちゃうんですよね。残念です。ゴミは持ち帰らされました。ご存知の通り。2日間の試験は面白かったですが、結構体力的にきついですね。

 

受験ビジネスの発展ぶりも身をもって体験しました。各予備校が提供しているインターネット上の自己採点サイトが充実していてすばらしいです。回答を入力すると自動採点してくれます。興味のある大学を選んでおくと4,5日後には合格判定もしてくれるという親切さです。この分野は集合知の勝負ですから、いかに素早くより多くの受験生のデータを集めるかにかかっています。実際に体験してみて、まだまだ発展の余地があると感じました。

 

受験科目について書いておきます。1日目は、社会2科目(現代社会、世界史A)、国語、英語、リスニング、2日目は、基礎理科2科目(物理基礎、地学基礎)、数学I・A、情報関係基礎、理科(地学)を受けました。出願時にはとにかくできるだけ選択肢を広く残して2日間フルで楽しめるように登録しておきました。あとは当日のその場のフィーリングで選びました。特に受験勉強はしなかったのですが、実力テストとしては結構面白いですね。現代社会とか、理科の基礎科目は結構大人としての常識力で解けちゃいました。英語力は確実に高校生の時より上がったと思います。数学はちょっと思い出すための勉強をしておかないとさすがに難しいですね。それと、妙に冗長な問題文にイラつきました。単純に数学の力を測る問題にしてもらった方が良いのではと思いました。

 

最初にお断りしたように今回の受験は単なる遊びです。そんな悪ふざけを正当化するようなことを書いて申し訳ないのですが、我々大学人も一度は受けてみると良いのではと思いました。私自身、このテストがどういう仕組みになっているのかわからずに監督業務をしていたことがよくわかりました。科目の選び方とか時間割とか、全然わかってなくて、受験してみてようやく理解しました。逆に、ほとんど仕組みもわからずに監督業務できるくらい監督マニュアルがしっかりできているっていうのがすごいなあと改めて思いました。しかしその監督業務では人間性を排除しなければいけないので、そもそも人間がやるべき業務なのか、という問いが残りますが。

 

なお言い訳をもう一つ。監督業務が当たっていたら受験なんてできなかったはずじゃないか、というご指摘があるかと思います。実は今年は末の息子が受験生だったのです。なので年度いっぱい大学入試の監督業務ははずしてもらっていました。つまり息子と一緒に受験したのです(笑)良い思い出になりました。

 

人口ピラミッドもひっくり返っていることですし、年配者も気楽に受験生や大学生になってみるのも良いのでは!?

 

「いざ出陣」と息子と記念撮影

「いざ出陣」と息子と記念撮影