関根 千佳(株式会社ユーディット(情報のUD研究所)

スーパーやコンビニで、セルフレジや購入時のタッチパネルが増えている。UIが各社で違うので、いつも一瞬とまどう。セルフレジって商品のバーコードを読ませるんだから、バーコード決済ってボタン押すんだよね?え、違うの?らら、最初からやり直し!後ろの人の視線が気になる。このまま時代についていけなくなるのかなあ。誰も残していかないって、SDGsで言っているじゃないの。お願いだから、置いていかないで。

 

2022年3月にアナハイムで開催されたCSUNカンファレンスに行った。世界最大の障害者支援技術とユニバーサルデザイン(UD)の会議である。30年近く通っているのだが、二年前はコロナのために涙をのんで直前キャンセル、昨年は完全オンラインだった。だが「この会議はリアルで開催してこそ意味がある!」という主催者の強い思いから、今年は対面で開催された。会場はいつもながら、補助犬と電動車いすの参加者で満杯だ。

 

CSUN会場 盲導犬がたくさん

CSUN会場 盲導犬がたくさん

 

二年ぶりに参加してみると、IT業界の進化がよくわかる。今回は「デジタル・アクセシビリティ」というキーワードにあふれていた。PCもWebも携帯アプリも通信・放送もコンテンツも書籍も情報キオスクも、デジタルで作られ、デジタルでアクセスできるものは、全てUDを前提にすべきという概念である。メタバースなどの仮想空間を始め、AR,VR,MRなどのXR全般を、どのようにアクセシブルに、かつユーザブルにしていくか、システム全体の設計にどうやって最初から多様なユーザーが参加するか、またそれをスパイラルに改善させるかを、IT各社が熱心に語っていた。

 

今回、特に目立ったのが情報キオスクのUDだった。店頭端末やATM、空港のチェックイン機、券売機や自販機など全てを含む。欧米には、障害者や高齢者にアクセスできないICT機器は、買っても作ってもいけないという法律があり、違反すると提訴され、莫大な罰金が科される可能性がある。例えばATMには、車いすでアクセスするための基準があり、正面には視覚障害者用のヘッドフォン端子が明示されている。

 

会場ホテルのATM 中央にヘッドフォン端子

会場ホテルのATM 中央にヘッドフォン端子

 

今回のCSUNでは、マクドナルド社が店頭のオーダーマシンをUDにする事例を紹介していた。ソフトは基本的にアクセシブルなhtmlで作ってあるため、Webと同じ感覚で、スクリーンリーダーのJAWSで読めるのだ。視覚障害者向けの入出力装置も紹介されており、USBで接続できる。全盲の人がランチをオーダーする映像が紹介されると、会場が湧いていた。

 

全盲の方がマックでオーダーするシーン

全盲の方がマックでオーダーするシーン

 

日本では、ATMや自販機などはかなりUDだと思う。だが寿司屋やカフェのオーダーシステムは、果たしてUDだろうか?ちゃんと視覚障害の人にアクセシブルで、シニアにもユーザブルだろうか?2050年まで高齢化率世界一を独走する日本では、あらゆる製品を、サービスを、デジタルを、UD以外では作らないでほしい。シニアもがんばって勉強するので、メーカー側も最初から多様なユーザーを考慮してほしい。どうか、私を置いていかないで。

 

7月5日にCSUN2022の報告会を開催します。
https://incl-design.net/2022-1-theme-talk/