仲谷 善雄(学校法人立命館)

 

私は現在、京都市内の学園本部に通っています。京都は観光の町。コロナ禍で激減したとは言え、国内の観光客の人数は少しずつ戻ってきており、京都駅の混雑ぶりも戻ってきています。このような観光都市京都のもうひとつの顔が「大学のまち」です。京都市内には38の大学・短期大学があり、国立・公立・私立、大規模な総合大学から単科大学まで、本当にバラエティに富んだ大学・短期大学が集まっています。大学生の絶対数こそ東京の方が多いのですが、人口に占める大学生の割合は10人に1人で、2位の東京23区の倍近くになります。15万人もいます。立命館大学もこの数字に大きく貢献しています。衣笠と朱雀の2キャンパスで1.4万人弱、京都市の大学生の1割近くが立命館大学の学生です。都道府県単位で大学生の割合を見ても、京都府が6.1%で全国1位です。人口10万人当たりの大学数も、1.22校で京都府がトップです。コロナ禍が少し落ち着いてきて、キャンパスに学生が戻って来ると、周辺地域も含めて、活気づきます。オンライン授業の有効性は認めつつ、学生が通うキャンパスや町の意義を改めて実感しています。大学のまちは青春の町です。

 

京都市もこのことを意識して、「大学のまち京都・学生のまち京都推進計画」を立案・推進しています。その中で、公益財団法人大学コンソーシアム京都(以後、コンソ)は、非常に特異なポジションを持っていると言えるでしょう。何より、全国にある大学コンソーシアムの先駆けとして、1994年度から「京都・大学センター」として活動を始めたことに意義があります。設立の相談に行った文科省では「コンソーシアムって何ですか?」と聞かれたそうです。それほど、当時の大学は独立しており、他大学と連携しようという発想そのものが珍しかったということでしょう。その後は大きく発展して来ています。私は2019年度にコンソの理事長を拝命し、その後は副理事長、評議員を務めています。理事長のときはちょうど25周年で、私はどうも、様々な組織の周年事業のときに「長」と名前がつくポジションに縁があるようです。副理事長のときは、コロナ対策でいろいろと苦心しました。

 

コンソの中核事業は、単位互換事業で、各大学のカリキュラムの変化やコロナ禍の影響もあって受講者は減っていますが、現在も継続しています。学生にとっては、他大学の講義という意識を強く持つことなしに、多様な学びに触れる絶好の機会であると考えています。この他にも、企業と連携したインターンシップ事業、京都世界遺産PBL科目の提供、地域連携事業、留学生支援、障がい学生支援、FD・SD活動、高大連携、国際学生映画祭など、48の大学・短期大学を会員として、地方自治体、経済団体の皆さんと連携協力して、事業を活発に進めています。コロナ対応では、コンソとしてワクチン接種の協力体制を作ることができました。大きな成果だったと思っています。さらに私が注目したいのは、大学や自治体・企業という組織間連携だけでなく、学生レベルでの交流が促進されていることです。2000年から「京都・学生フェスティバル(現在は京都学生祭典)」が10月に開催されていて、コンソが支援しています。これは、自主的な学生組織が企画運営する学生による学生のためのフェスティバルで、平安神宮前・岡崎プロムナード一帯に10万人を集める祭典です。「10万人」です。これを会員大学から集まった学生たちが20年以上も継続して開催していることは、驚異的なことだと思います。まさに「学生のまち京都」の面目躍如たる秋の風物詩です。京都が学生を育み、学生が京都を盛り上げています。

 

教育未来創造会議の提言などで、大学を越えた連携協力の推進が述べられています。コンソはそれを、ある意味で先取りしてきたと言えるでしょう。京都という、比較的に狭い土地に、多くの特色ある大学・短大が集積し、独自色を出しながらも、自分のところにないものを提供し合うという枠組み。独立しながらも、自前主義ではない。これは、なかなか面白い京都の風土だと思います。私は、美術工芸や食などの様々な分野で専門分化を進めて高度化を図りつつ、協力して京都ブランドのモノやサービスを開発提供してきた京都という土地の伝統ではないかとも考えています。京都はベンチャーが起業しやすいと言われているのも、これと関係するのでしょう。すべてをゼロから始めなくてもよいわけです。そう言えば、私が提案して今も関わっている京都市帰宅困難者対策でも、企業の皆さんに集まって頂いて、帰宅困難者を出さないためのルール作りや備蓄の促進などを議論した際、メンバー各社は「そんなこと、無理ですよ」などと渋い顔をされていましたが、「各社ですべてを担ってくださいとは言っていません。互いに持ちつ持たれつ、得意分野で備蓄や対策を行い、隣りどうし、地域内で協力して頂ければ結構です」という私のひと言で、場の雰囲気ががらりと変わり、協力して頂けるようになったことが忘れられません。

 

防災に携わって気になるのは、日本の防災が住民票ベースで、住民票を移さずに下宿している学生は、避難所の受入計画人数にカウントされていないことです。区長の方に伺ったところ、自分の地域の下宿生の人数もご存知ないということでした。京都に限らず、下宿生の多い町が抱える防災の課題です。

 

実はこの帰宅困難者対策、私が企業から大学教員になった2004年に、コンソを介して京都市から頂いた研究調査費がベースとなって提案したもので、準備期間を経て、東日本大震災を契機として具体的施策として実現しました。これをご縁に、京都市と様々に研究をさせて頂くようになりました。その意味で、私の「大学のまち京都」は、コンソで始まり、今、立場を変えて新たな展開に関わらせて頂いていることはありがたいと思っています。

 

第36回リレーエッセイ画像

帰宅困難者避難誘導訓練におけるSNSでの情報共有実験の様子