瀬島吉裕(関西大学)

 

春になると寒さも落ち着き,暖かい日差しが心を躍らせます.ポカポカして気持ちいい季節は,足取りを軽くさせどこかへ出掛けたい気分にさせます.知らない場所に行って,その土地で採れた食物や,独自に発展した町並みを歩くのは旅の醍醐味ですが,私がオススメしたいのは「橋」を眺めることです.

 

橋は紀元前から造られていて,有名なのはフランス南部にある古代ローマの水道橋ポン・デュ・ガールです.日本では「日本書紀」に最初の橋が登場します.この橋は,飛び石に倒木を掛けたようなものとされていて,人が通る街道に架けられたようです.このような原始的な橋を通じて人々が交流し,多くの文化と知恵が混ざり合うことによって,橋梁技術が発展して,公共性と耐久性を兼ね備えた現在の姿になりました.

 

橋は,人の生活にはなくてはならない基盤インフラで,物・人・文化を運ぶという,人間社会の「つなぐ」行為を形にしたインタフェースといえるのではないでしょうか.たとえば,江戸時代に大坂が商業の街として発展した理由には,橋が大きく関係しています.当時の輸送は船が主流であったため,船着き場の袂に橋が架かっていて物流の効率化と人流の活性化が図られていました.あまりにも橋が多いため「なにわ八百八橋」と呼ばれていたほど,大阪は河川と橋とともに発展してきました.現代においても多くの橋を残すのは,ビジネス街である中之島です.長さ3km,幅300mという小さな島にもかかわらず24橋もの橋が架かっています.難波橋・天神橋・天満橋は浪華三大橋として有名で,中でも私は難波橋が魅力的だと思います.難波橋は,アーチ構造のクラシカルな姿で,新柱にはライオンが4頭鎮座していることから別名「ライオン橋」の愛称を持ちます.土佐堀川から難波橋を見渡す景色は,中之島公園の玄関口としてとても優美で,ノスタルジックな雰囲気を醸し出します.夜になると,ライトアップされて水辺の賑わいを演出し,水面に反射する光の彩に私は思わず足を止めてしまいます.

 

このように,橋は輸送機能だけでなく,人々を惹きつける機能があります.この機能の重要性は,紀元前にはすでに説かれており,古代ローマの建築家ウィトルウィウスは,自著にて「建築物は,用(有用性)・強(耐久性)・美(芸術性)の理が保たれるように造られるべきである」という設計思想を主張しています.この設計思想は現代の「モノづくり」にも根付いています.橋は,建築物の中でも公共性が高いので,誰にとっても利用しやすく,長持ちで,人々に親しまれなければなりません.これは,ヒューマンインタフェースの設計にも当てはまるのではないでしょうか.すなわち,利用者や利用シーンによって制限していく研究論文的発想でなく,公共性というユニバーサルな視点や,耐久性というハードや仕組みを長持ちさせる視点,そして人々に親しまれ愛される視点を取り込むことが大切だと思います.橋の優美な姿を眺めていると,時の移ろいとともに変わりゆく景観が心を落ち着かせ,自らの設計思想を振り返り思考を深める時間を与えてくれます.

 

 

難波橋

難波橋(ライオン橋)