中谷桃子(東京工業大学)
仕事と家庭生活を完全に切り離すのではなく、そこに接点が作れないものか…?これは、私が出産後から模索/挑戦し続けている研究の裏テーマです。私は仕事が好きなので、出産後の仕事復帰はとても早かったのですが、それでも子どもと過ごす時間が減ることには、かなりの葛藤がありました。
研究には終わりがありません。基本的に自分の興味があることをテーマに研究をしているので、いくらでも働けてしまいます。どこまで手を拡げ、どこまで突き詰めるのかは自分の裁量次第。やればやるほど知識・経験は拡がり、考えも深まるので、時間はいくらあっても足りません。
一方で、子どもは本当にかわいいし、日々の成長も目ざましく、目を離したくもありません。子どもと過ごせる時間を増やすために、職場で「子連れ出勤」の施策が始まった際には、迷わず応募しました。同僚と同じ日に子連れ出勤をして、子ども達が楽しそうに遊ぶ姿を横目に見つつ仕事ができた時間はとても充実していました。ただし、集中を要する仕事は難しいし、親が遊べない時間が続くと子どもの機嫌は徐々に悪くなっていき、一体何のために保育園を休ませてまで子連れ出勤しているんだ?という気持ちになることもありました。結局、子連れ出勤は、「非日常」としてたまになら良いのですが、日常的に実施するには相応の支援体制(保育士の配備など)が必要なことを学びました。その後、COVID-19流行初期には、子どもを見つつ在宅仕事をしていた時期もありましたが、やはりまったく仕事になりませんでした。仕事と育児の両者を、支援や工夫なしに同じ時間・空間で行うことには限界があると感じました。
一方で、子どもが1歳のときに立ち上げた乳幼児を育てる親子を対象としたリビングラボ(LL)は、仕事と育児の接点をうまくデザイン出来た例でした。同LLは親子向けのサービスを創り出すことを目的とした場です。子育て当事者の親と、企業のサービス企画担当者や技術者、研究者など、多様なステークホルダがその場に訪れ、フラットな立場で対話を重ね、サービスをみんなで創り上げます。子どもは、同じ部屋の中で保育士さん達にみて頂き、その場で目いっぱい楽しんでいました。企業参加者は、親子にどのようなサービスが喜ばれるかという肌感覚が得られ、育児中の親には、自分の意見をサービス開発に役立たせることができ、社会とつながっている感覚が得られることに価値を感じて頂けました。
私自身は場のデザインと当日のファシリテータを担いましたが、自分の生活の中心にある「子育て」を仕事のテーマにできたことが、仕事と生活の両面に良い効果をもたらしました。まず、さまざまな親の考え方に触れられたことは、自分の育児に多大な影響がありました。また、数年に渡り月1-2回子連れでの開催を続けたため、自分の子どもの外での様子や成長を仕事をしながら感じることができ、充実した時間でした。この取組みは後に論文(HI学会論文誌Vol.21,(4))にもつながり、研究テーマを拡げることができました。また、地域の方やNPOなど多様な方と出会うことができ、人脈も視野も大きく拡がりました。
「ワークライフバランス」というと、自分の時間をワークとライフにどう配分するか?という問題と捉えられがちですが、実際には「仕事と生活との調和」という意味だそうです。また、最近は「ワーク」と「ライフ」は対立概念ではなく互いにポジティブな影響を与えあう要素であり、その両者の充実を目指す「ワークライフインテグレーション」という考え方もあるそうです。
LLでできたつながりや経験は、子どもが7歳になった今でも仕事にも育児にも役立っています。自分が心地よく感じる両者の両立の仕方は、仕事や子どもの状況・成長によって変化し続けていますが、私は今後も、自分の仕事と生活に接点をつくり、相乗効果を生み出す方法を模索し続けたいと考えています。