西山里利(目白大学人間学部子ども学科)
子どもは創造力を発揮して遊び、様々な工夫や挑戦をしています。それが経験となり学びに繋がる一方、危険と隣り合わせでもあります。遊びと危険の狭間で保育者は安全管理を徹底し、事故防止対策を講じる必要があります。筆者は保育者養成の学科に所属し、小児保健の指導に携わっています。授業では、現場から得たヒヤリ・ハット等の事例を学生に示して考える機会を設けています。その事例をいくつか紹介します。
3歳男児、園児用椅子の背もたれの空間に頭が挟まり抜けなくなった事例です。その空間は計測してみると12cmしかありませんでした。男児の頭囲は身体発育曲線で見てみると3歳以上3歳6か月未満では中央値が49.7cmですから、頭の形状が正円と仮定した直径は、約15.8cmです。実際には楕円ですし、発育状況によっては12cmの空間に頭が入ることは十分あり得るのです。
4歳男児、木登り中に棗(ナツメ)の枝の股に足が挟まり抜けなくなった事例では、木から足を抜いて救出する方法まで解説します。樹皮はゴム底ではいかにも抜けなくなりそうな木肌(図1)です。足は靴に密着していてどのようにしても抜けません。学生の解答例では、木を切る、上から身体を引っ張ると言った保育上疑問符が付く案や身体損傷に繋がりかねない案まで出てきます。さらに考えるように問いかけると、解決策が出てくることがあります。それは、樹皮とゴム底の滑りを良くするために石鹸水をかける方法です。語ってくださった先生は地域で交流のある農家の方から教わったそうです。現場では、生活の知恵も求められるのです。
青梅の時期には梅ジュースを作るために収穫体験をする園があります。収穫のためには事前に枝の処理を行います。梅は小枝が多数あり、周囲に目が行きにくい幼児では小枝で目を傷つける恐れがあるからです。保育者は植物等の特性も含めた環境を把握して、事故防止に努める必要があるのです。
プールの監視員の間では、「浮き輪と保護者は信じるな」という言葉があります。これは、ゼミ生が卒論のデータ収集で得た情報です。浮き輪は身体にフィットしていても水が潤滑油の働きをして、すっぽりと抜ける場合があります。溺れる時、大人は騒ぎますが子どもは静かに沈むと言われます。例えそばに保護者が付いていたとしても、水面下は光の屈折により地上と同じようには見えませんから、気づけないことがあるのです。したがって、身体の向きを換えたり目を離したりした一瞬の隙に、周囲の人に気づかれずに静かに沈んでいくのです。監視員は、不確実な浮き輪や保護者を当てにするのではなく、死角を作らない体制やプールに入る前からの子どもの観察と行動予測によって、安全を守っているのです。
このように、子どもの事故は大人の目線では気づきにくい環境や想定外の行動等により発生します。しないだろうではなくするかもしれないと捉えて、環境の改善、死角を作らない立ち位置の検討、職員同士の密な連携、お約束をする等の仕組みの徹底、子どもと保護者に対する安全教育等が重要です。特に、インタフェースに関する視点では、子どもの発育発達の程度や行動傾向、精神状態等を把握し、地形や設備、遊具や玩具のデザイン、サイズ、材質等をふまえた対策を講じるように学生指導しています。