長松 隆(神戸大学大学院海事科学研究科)
クラリネットを中学から吹奏楽(ブラスバンド)で始め、大学以降はオーケストラをやっていたが、10年余り前にリコーダーを始めた。いや、小学校で習ったから”再開”したというべきであろうか?リコーダーを”再開”したきっかけは、以前入っていたアマチュアオーケストラに古楽をやっている人がいて、影響を受けたからである。
リコーダーというと、小学生が音楽の時間に使うおもちゃみたいな楽器と思うかもしれないが、実は結構古くからある楽器で、バッハ、ヘンデルなど著名な作曲家がリコーダーを使った曲をいくつも作曲している。そんなに難しい曲はないだろうと思うかもしれないが、YouTubeで、ヴィヴァルディのリコーダー協奏曲とでも検索してみて欲しい。人間業とは思えないリコーダーの演奏を聴けることであろう。
ここでは、リコーダーが活躍するバロック音楽の世界に足を踏み入れて、知ったことや感想などをいくつか書いてみたい。
○リコーダーはクラリネットより長い歴史のある楽器である
クラリネットという楽器は、モーツァルト(1756-1791)のいた時代あたりから使われている比較的新しい楽器である。それ故、オーケストラでバッハ(1685-1750)を演奏するとき、クラリネット吹きは出番がないので、舞台袖で指をくわえて見ていなければならない。(リコーダーが吹ければそんなことはないに違いない!)
○バロック音楽はアドリブが多い
通常、音楽演奏においては楽譜通り演奏しなさいと言われることが多いが(マーラー(1860-1911)なんかだと楽譜に細かい指示がある)、バロック音楽の演奏では楽譜に書いていないトリルを入れたり装飾を入れたりと、とにかくアドリブが多いのである。ジャズのようなものである(知らんけど)。
楽譜を渡されて、ぱっと見、二分音符とか多くてゆっくりで簡単そうだなーと思ったとする。ところが、YouTubeで探して演奏を聴くと、なんじゃこりゃー、という即興的な演奏が行われていて、びっくりする。これが、当時行われていたディミニューションという「主題の旋律の音型を細かく分割して演奏する旋律変奏法」[1]なのである。ゆっくりな曲の方が速いんじゃないかという、もはやなぞである。
また、いくつかならんだ八分音符を楽譜通り演奏すると他の人とリズムが合わないということもある。そんなときはイネガル奏法[2]である。均等に並んだ音符を、付点っぽく演奏する慣習が当時あったようである。特に、フランスで使われていた奏法なので、作曲者がフランス人(もしくはフランスで活躍した人)かどうかという点には要注意である。
○チューニングが半音低い
チューニング(複数人で楽器の音の高さを合わせる作業)をするときに基準とする音はAすなわちラの音なのだが、一般的には、A=440~443Hzで合わせる。ところが、現代のバロックの演奏では、A=415Hzでチューニングすることが多い。要は半音低く合わせるのである。弦楽器は、弦をゆるめればどうにかなるが、管楽器は新たに楽器を買わなければならない。
○アルトリコーダーが主流である
小学校でソプラノリコーダーを習い、中学校でおまけのようにアルトリコーダーを習うので、一般の人はソプラノリコーダーが標準的な楽器と思っているかもしれないが、リコーダーが活躍したバロック時代においては、アルトリコーダーが主流であった。ヘンデル、テレマンもアルトリコーダー向けにいろんな曲を残している。運指はソプラノリコーダー以外は、ほぼバロック式なので、これから購入する方は、ソプラノリコーダーもジャーマン式じゃなくてバロック式を買った方がいいだろう。
○リコーダーが活躍する曲がたくさんある
バロック時代では、リコーダーは花形独奏楽器だった。テレマンやヘンデルはたくさんの独奏曲を残している。バッハは独奏曲は残していないが、ブランデンブルグ協奏曲の第2番と第4番において、リコーダーを独奏楽器の一つとして用いている。ブランデンブルグ協奏曲第2番は、(トランペットが超難しいことで有名であるが、)主に弦楽器を伴奏に、リコーダー、トランペット、オーボエ、ヴァイオリンを独奏楽器として使用する華やかな楽曲である。また、第4番は、なんと、リコーダー2本(とヴァイオリン)が独奏楽器である。
○楽譜が無料で手に入る
基本的に著作権がきれているので楽譜は無料で手に入れることが可能である[3]。作曲者の自筆譜、古い手書きの楽譜も多く、現代人用に書き直したものがない場合は、楽譜はあっても、何が書いてあるかよくわからないということは多い。
ここまで読んでしまった人は、押し入れからアルトリコーダーをひっぱりだして、まずは、ヘンデルのソナタを練習してみよう(https://imslp.org で、HWV360, HWV362, HWV365, HWV367a, HWV369, HWV377のどれかを検索!)。
[1] 洗足オンラインスクール・オブ・ミュージック, ロニョーニによるパレストリーナの《春は丘を彩り》のディミニューション, https://www.senzoku-online.jp/history/museum/07baro01/02.html (参照 2024-7-30) [2] イネガル奏法, https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A4%E3%83%8D%E3%82%AC%E3%83%AB%E5%A5%8F%E6%B3%95 (参照 2024-7-30) [3] International Music Score Library Project, https://imslp.org/ (参照 2024-7-30)