川合康央(文教大学)
私たちが普段生活している街には、さまざまな都市のインタフェースが存在します。交差点では、横断歩道や標識が車両と歩行者を安全に誘導し、駅ではサインが複雑な空間の道案内をしています。また、駅のホームドアや点字ブロック、音響式信号、ピクトグラムなどによって、さまざまな人々がより便利で安全に利用できるよう、これまでにも多くの工夫が重ねられてきました。さらに、座れそうな段差や日陰をつくる街路樹などは、人々の活動を自然に促すソフトなインタフェースとして機能しています。
こうしたアナログなインタフェースに対して、現在では都市のデジタルなインタフェースが急速に進化しています。鉄道の時刻表はスマートフォンのアプリによって、遅延情報などをリアルタイムで反映しながら最適なルートを提示します。乗車券の購入も、交通系ICカードを利用して手間なく行えるようになりました。位置情報サービスを活用すれば、現在地に近い飲食店や観光スポットを簡単に調べることができ、災害時には防災アプリやSNSを通じて正確な避難指示が届きます。シェアサイクルやフードデリバリーなどのサービスも、新たな都市の利用形態を創出しました。さらに、現実空間を仮想空間で再現した都市のデジタルツインは、建物や交通データ、環境センサーの情報を反映して、混雑予測や経路最適化、防災計画など、新しい都市の利活用を可能にしています。
一方で、大規模な自然災害が発生すると、こうしたデジタルの強みが一転する場合があります。停電により電力供給が途絶えると、スマートフォンのバッテリーは切れ、基地局も予備電源が尽きれば、各種アプリは使えなくなりネットワークサービスも機能を停止してしまいます。そのような時、避難場所の方向や海抜表示が記されたサインなどのアナログなインタフェースが頼りになるのです。
また、都市のインタフェースは、その土地の気候や文化、風習を反映します。たとえば京都の町並みでは、町家の前に「駒寄せ」や「犬矢来」と呼ばれる柵のような構造物が設置されています。これは、敷地と道路の境界を示すだけでなく、歩行者や荷車から建物を守るための仕掛けとして古くから受け継がれてきたものです。この家屋を守るための構造物は、長い年月の中で地域の伝統的な景観の一部として街並みを形成してきました。このように、都市のインタフェースは単なる機能を超えて、その土地固有のアイデンティティを形成する重要な要素にもなっています。こうした地域特有のインタフェースをいかに保存していくかも重要な課題です。
都市は、アナログとデジタルの両輪によるさまざまなインタフェースの集合体が、人々の活動を支えています。効率性や利便性だけでなく、地域性や個人情報など、さまざまな価値のバランスをとりながら、これらのインタフェースを今後もアップデートしていく必要があります。都市の魅力は、こうした多層的なインタフェース同士の有機的なつながりにこそあるのではないでしょうか。