田中 貴紘(名古屋大学 未来社会創造機構)
恥ずかしながら,リレーエッセイのお話を頂いて初めて,学会の「リレーエッセイ」のコンテンツに気がつきました.諸先輩方の様々な,研究に関係あったりなかったりするお話を読み,益々何を書けばいいのか分からなくなったので,趣味の話をちょっと書くことにします.
名古屋に移って(戻って)十数年経ちました.専ら企業とモビリティ関係(運転支援や自動運転,高齢ドライバ対策,HMI)の共同研究で,実証実験やサービス化に向けた活動を進めています.また,ベンチャーも立ち上げました.株式会社ポットスチルと言います.と,言うことで,今回は名古屋に戻ってハマってしまったウイスキーの話を少し書かせて頂きます.ちなみに,ポットスチルはウイスキーの原酒を作る蒸留器のことで,会社名を決める際に思い付きで決めました.いつウイスキーを作るの?と良く聞かれますが,作ることはないはずです.
ウイスキーは学生時代からほとんど飲んだことがなく,余り良いイメージがありませんでしたが,前述の異動の際に学生時代からの友人に誘われ,名古屋のとあるバー,所謂オーセンティックバー,を紹介されて飲んだ「プライベートボトルのアイラのシングルモルト」がきっかけでハマりました.ウイスキー(主にスコッチやジャパニーズの話)には,“シングルモルト:一つの蒸留所で作った大麦・モルトの原酒のみ”と“ブレンデッド:モルトウイスキーと,とうもろこし等の大麦以外から作られたグレーンウイスキーを混ぜたもの”があり,蒸留所のある地域によって味わいが異なります.世の大半はブレンデッドです.ちなみに,アイラはスコットランドのアイラ島にある蒸留所産を指します.蒸留所が原酒を作って樽から瓶に詰めて売っているもの,これを“オフィシャル”と呼びます.一般的に何とか12年とか18年とかで売られています.これに対し,特にスコットランドでは,樽だけ買い付けてきて独自で寝かせて瓶詰して売る業者(瓶詰業者,プライベートボトラー)がいて,それぞれ販売しているものを“プライベートボトル”と呼びます.以上が,先ほどの呪文みたいなものの意味となります.
年数の違いや樽の材質の違いなどありますが,前述の2つの大きな違いは,オフィシャルが瓶詰する際に同年数の樽を味の均一化のため混ぜ合わせるのに対し,プライベートボトルは基本一つの樽のみから100~300本ほど詰めるところにあります.ウイスキーの熟成は数年から数十年となりますが,樽の材質だけでなく,置かれていた場所や気温変化などの要素の影響を受け,実際は樽ごとに味が異なってきます.プライベートボトルはその違いをそのまま瓶詰するため,同じ蒸留所産でも当たり外れのある,揺らぎのある酒となります.揺らぎがあるっていいですよね.しかも一つの樽から取れる量がそのまま世界で流通する量となるため,日本割り当て分は10数本のみ,なんてこともざらです.怖いですよね,主に金額が.そういったボトルが何十年前からあって,個人で買ったりもしますが,どうしても個人で買えない(金額的に,機会的に)ものはバーで飲むしかないわけです.冒頭のオーセンティックバーですと,何百本とプライベートボトルしか置いてない.通うしかない訳ですよ.仕方ない.最近はカスクオーナー権を先に買って数年後に届く酒を待つ,こともしています.
ご存じの通り,今年のHIシンポジウムは金沢です.金沢はオーセンティックバー文化で有名な地域です.私もぜひ再訪したいお店があります.今年の9月が楽しみですね(どっちが?).皆さん,ぜひご参加ください.

毎回探索方針が揺らぎます