本吉 達郎(富山県立大学

 

コロナ禍、担当講義で学生に出した課題は「ネット情報“だけ”を頼りに、何か新しいことに挑戦し、その成果と成長をレポートにまとめよ」でした。地方大学にやって来た学生たちが見知らぬ土地で誰ともつながれぬままひっそり下宿生活を送ることが不憫に思えたことがきっかけでした。

 

見本レポートを作るべく、私自身も何かに挑戦せねばと決意。探し始めたのは、趣味のヴァイオリン演奏に関する動画でした。目に飛び込んできたのは、世界的ヴァイオリニスト Hilary Hahn氏が、Paganini作曲「ヴァイオリンのためのカプリース第24番」を演奏しながらなぜかフラフープを回しているという衝撃映像[1]。ヴァイオリン+フラフープのまさかの二刀流。

 

その瞬間、頭の中には幼稚園時代の記憶がよみがえりました。次々と軽やかにフラフープを回しはじめる仲間、得意げな顔、そしてその輪の外の自分・・・。いやいや、あの頃は誰もコツを教えてくれなかった。今は令和。解説動画の宝庫・インターネットもある。自分はまだ“未知数の塊”。

 

さっそく某動画サイトで「フラフープ 回し方」「プロが教える回し方」などと検索。「秒でできるようになりました!」「一瞬でマスターしました!」というコメントに背中を押され、子どものフラフープを拝借、PC画面とにらめっこしながら練習スタート!・・・しかしフープはまたもや重力に逆らわず、数回転で落下していきます。どんなに意識してもフラフープは意思を持たず、物理の法則に忠実でした。そのうち子どもたちがこちらを横目にフープを回し始め、デジャヴかと思うほどあの頃の光景が家庭内リプレイ。何十年経っても、私は“輪”の外の人間でした。

 

 

動画の多くは、
1. 体の軸を意識
2. フープを押し出す(回し始める)
3. 回り始めたら腰で押す

 

という3ステップを丁寧に解説してくれます。理屈はわかったつもりです。しかしフープはスルッと地面へ。どうやら達人たちは、ステップ2から3の間にある “なにか”――「フープ界の壁」を越えているように見えるのです。その“なにか”を発見できないまま静かに2度目の撤退を決意。

 

結局、新たに挑戦する内容は「ジャックナイフターン(ロードバイク)」に方向転換し、遠隔授業が終わるたび防犯カメラの下でぐりんぐりんと回転、練習を記録し続けました。最終的には、バイクの回転角の変遷を見本レポートとして提示し、あらためて回るってことの大事さを噛み締めておりました。

 

ボールの打ち返し方、自転車の乗り方、バク転――世の中には言葉だけでは伝えきれない技や動作が沢山ありますが、きっと皆、各々の体と相談しながら、また自分なりの練習ステップを経て感覚を育てているものと思われます。しかし、数ある“技”の中でも、私にとってフラフープは、いまだに「こちら側」と「あちら側」を分ける分厚い壁が存在しています。今日も輪の外から、あのクルクルを羨望の眼差しで見つめるばかりです。二刀流は遠かった・・

 

[1] TwoSetViolin: Paganini 24 Hula Hoop (with Hilary Hahn)
https://www.youtube.com/watch?v=eOjO4ekcJQA&t=3s