木村 朝子(立命館大学)
この夏,ドイツのシュトゥットガルト大学にあるVisualization Research Center(通称VISUS,写真1)を訪ねてきました.目的は,現在同センターでJunior Research Group Leaderとして活躍されている森尚平先生との研究打ち合わせです.

写真1シュトゥットガルト大学Visualization Research Center
森先生は,私の研究室で博士号を取得された後,慶應義塾大学理工学部,オーストリアのグラーツ工科大学Institute of Computer Graphics and Visionを経て,現在はVISUSにてMediated Reality Groupのリーダとして精力的に研究を進めておられます.今回の訪問は,森先生との共同研究の一環として,私自身の講演と研究打ち合わせを行うことが目的でした.
VISUSでは,失われたベルサイユ宮殿をVRで再現したシステムを体験させていただきました.全方向トレッドミル上で「おっとっと」となりながら,当時の宮殿内を歩き回る感覚は新鮮で,(ドイツではないものの)ヨーロッパの歴史に触れられる貴重な体験でした.学生や研究者の研究スタイルも印象的で,博士課程以上のメンバーには二人一部屋のオフィスが与えられ,修士以下の学生は共用のPCルームや実験室で研究を進めているとのこと.アメリカに留学したときも同様のスタイルでしたが,改めて,日本のような“研究室という大部屋”が存在しないことがとても興味深く感じられました.写真2は,建物2階の中庭でミーティング中の様子です.

写真2森先生と打ち合わせ中
学生の研究参加スタイルもかなり違います.欧州では,研究者が提示したプロジェクトに対して,学生が「応募」する形で配属が決まるとのこと.学生は自分の能力をアピールする必要があり,研究者はそれを見てチームに迎えるかを判断します.また,博士後期課程の学生は給与を得ながら研究に取り組んでおり,この段階で初めて“研究者”と見なされるようです.私たちが当たり前だと思っている研究室文化が,国によって大きく異なることに改めて気づかされました.学食では期待通り,ソーセージとフライドポテトのランチ.まさにドイツ!
さて,ドイツといえば…ビール!という印象をお持ちの方も多いと思いますが,私はお酒を飲まないので,残念ながらビール体験はスキップ.その代わり,台所付きのアパートメント(写真3)に滞在していたので,地元のスーパーやマルシェで食材を買い,自炊する毎日を楽しみました.中でも印象的だったのはジャガイモ.日本では「男爵」や「メークイン」など品種で売られていますが,ドイツでは「煮込み用」「サラダ用」など用途で分類されていて,ああ,なるほどこういう見せ方も合理的だなあ,なんとなくドイツっぽいと思いました.

写真3キッチン付きのアパートメント
乳製品の豊富さにも驚きました.ヨーグルト,チーズ,バター,アイスクリーム……どれも種類が豊富で値段も安く,滞在中は冷蔵庫がすっかり乳製品だらけに.そして,パン屋さんの多さ!街のいたるところにパン屋があり,カンパーニュのような素朴な丸パンが香ばしくて美味しかったです.
ちょっとドキドキしたのは,現地のタクシーやバスのスピード感.細い道や急カーブでもお構いなしに走る運転に,思わず手に汗を握っていました.さらに,思っていたよりも喫煙者が多いのも意外な発見でした.
シュトゥットガルトといえば,自動車の街.ポルシェとメルセデスベンツの両博物館があり,私はメルセデスベンツ博物館(写真4)を訪れました.館内はどこか“少し昔に思い描いた近未来”のようなデザインで,懐かしさとおしゃれさが同居した雰囲気です.展示内容も非常に充実しており,フロアを下るごとに時代が少しずつ進んでいく構成になっていて,自動車の歴史を社会の変化とともにたどれる点がとても印象的でした.

写真4メルセデスベンツ博物館
他国の研究機関を訪ねることは,単なる研究成果の交換にとどまりません.教育システム,プロジェクト運営,評価軸,学生のモチベーションのつくり方……さまざまな違いを体感することで,むしろ自分自身の研究文化や価値観を,外から冷静に見つめ直すきっかけにもなります.
さて,このリレーエッセイもついに第100回.これにてファーストシーズンはひと区切りとのこと.次回からは岡耕平先生による「岡耕平、国際計画」シリーズが始まります.岡先生がどのような国際的挑戦をされるのか,私も楽しみにしています.読者の皆さま,どうぞお見逃しなく!