2020年3月6日(金)に同志社大学東京オフィスにおいて開催されました2020年度ヒューマンインタフェース学会通常総会(Zoom を用いたオンライン開催)の後、2019 年度研究会賞の授与式がオンライン開催で行われました。研究会賞は本学会が開催する研究会の活性化を目的に設立された賞です。今回は 2019 年に開催された第 163 回から第 172 回まで計 10 回の研究会にて発表された 61 件の研究発表が対象となりました。これらの研究発表に対して、まず各研究会を主催した 6 つの常設専門研究委員会から候補となる研究発表を推薦いただき、9 件が候補となりました。そして、候補の発表論文を研究会賞審査委員会メンバ(研究会運営委員会の正副委員長、幹事 2 名、各専門研究委員会委員長等 6 名の計10 名)が新規性と実用性の観点から厳正に審査いたしました。その結果、以下の 3 件の研究論文を研究会賞として選定いたしました。受賞理由と併せてご紹介いたします。受賞の様子は、総会報告に掲載されておりますので、ぜひご覧ください。

研究会賞審査委員会委員長 伊藤 京子


辻 恵梨香,岡 耕平(滋慶医療科学大学院大学) 認知症のある高齢者に対し介護職員が用いる方便的欺瞞の分類(第165回研究会)
受賞理由:
本研究では、介護施設などにおいて認知症のある介護者に対し「方便的に」使用されている欺瞞がどのようなものであるかを、130 名の介護職員にインタビューを行うことで調査している。結果として、99.2% の介護者が方便的な欺瞞を使用しており、使用されるケースが多いものとして「帰宅を要求する場面」「人を探し職員に尋ねる場面」などがあることが示されている。これらの結果は、今後認知症患者が増えていくと思われる日本において、被介護者の QOL を改善していく上で重要なデータであるため、研究会賞としてふさわしいと判断した。
進藤 綺乃,吉野 孝(和歌山大学), 宮部 真衣(公立諏訪東京理科大学) 英語の飲食関連Webサイトを用いたおいしさを表すことばの日英対訳手法の提案 (第169回研究会)
受賞理由:
本研究では、おいしさを表す表現である「シズルワード」に着目し、日本語に対応する隠れた英訳がどのようなものであるかを調べている。具体的には日本語の対訳に近い英単語を、アメリカのレシピサイトで学習した Word2Vec を用いることで検索している。結果として、例えば「香ばしい」の対訳として辞書では「savory」が見つかるのに対し、本研究では「smoky」を隠れた訳として見出している。本論文は機械学習的なアプローチを利用して、人のコミュニケーションを支援する Good Practice であり、研究会賞としてふさわしいと判断した。
當間 奏人,米村 俊一(芝浦工業大学) 遠隔グループワークにおけるアイディア創出支援システム -遠隔話者の注視エリア共有機能がコミュニケーションに与える効果- (第171回研究会)
受賞理由:
本研究は、プロジェクションマッピングを利用した、多対多の遠隔グループワークを支援するシステムに関するものである。数年に渡り改良が進められてきた当該システムについて、本論文では参加者の注視点を可視化する機能を実装し、その効果を検証している。実験の結果、議論の発散フェーズでは個別の注視点はさほど意識されておらず塊として認識されていることや、逆に収束フェーズでは誰が見ているのかが役立っていることなどが知見として示されている。遠隔グループワークにおける問題点を適切に研究対象として落とし込んでいる点、そして毎年研究会にて報告されているように、着実に一歩ずつ研究を進めている点を高く評価した。