大崎 章弘(お茶の水女子大学)

 

「廊下の電気のスイッチ切ったか!」と、先生の声が飛ぶのは都心にある公立中学校。生徒への「SDGs」の指導で休み時間毎にこまめに切らせているのである。 聞いたのは昨年、私が理科の出前授業に伺った時。毎年、都内の区教委からの委託事業で区内全ての中学校2年生を対象に授業を行っている。昨年は電気の単元で教材を作り授業を行っていたときのことだ。 そんな生徒らに「家のコンセントは何ボルト?」と聞いても100Vという答えはほとんど出てこない。「1万V」とか平気で出てくる。「じゃあ単3の乾電池は?」と乾電池を片手に持って尋ねても1.5Vなんか出てきやしない。もう既にどの学校も電気の単元に入ったところではあったが。

 

実は小学校では「電圧」を教えていない。教えているのは「電流」だけで、「電圧」という概念は中学校になってから。しかも電気の単元は中学1年にはなく、中学2年の後半にようやく電気の学習が始まりようやく「電圧」概念が登場。それに留まらず「抵抗」からオームの法則、「磁界」の働き、「電力」と新しい概念と計算が次々とあらわれ、家庭の電気が100Vと出る頃には、多くの生徒が電気の理解を深める前に挫折してしまうのが現実だ。

 

「みんなは家電製品の電気が減ったことはどうやって知るの?」と聞いても画面の残量イラストとかで、、と、まあそんなところ。家庭には体温測るのには体温計。体重測るのは体重計、最近は100均に水温計まで、数値で測る様々なデジタル機器が身近になったのに、大切に大切にと言われている電気は、電気会社からの通知か、機器のメータ。いまだに自分で電気の量を測れないのって、それで良いのだろうか?

 

授業では生徒にデジタルテスタを配布して電池を測ることから始めたが、テスタを使ったことがある人はほとんどいない。平成20年に改訂された学習指導要領でようやく理科や技術家庭の教科書にデジタルテスタが紹介されたが実際にはほとんど使われておらず、実物も学校に見当たらない。あったとしても古い巨大なタイプ。先生も使ったことがないからよくわからずそのままに。テスタで乾電池の電圧を測ると、1.5Vのはずの電池が新品だと1.6Vあったり、それが減っていくことに驚く生徒も多い。

 

学習指導要領は10年に一度しか変わらない。現在の教科書は筆者が受けた時代よりもサイズも大きく、LEDやコンデンサも加わるなど知識もふんだんに盛り込まれてきたが、アナログの検流計はそのまま。平成29年改訂の現在の学習指導要領で小学6年にはプログラミングとマイコンまで入り、身近なエネルギーの課題など社会的な話題が取り上げられている。世間はこの数十年でまさにオール電化の時代に突入。学校もGIGAスクールが早々に実現。最先端では量子コンピュータもみえてきた。しかしそれらの機械の電気表示すら読めぬまま中学校を卒業するものも多くいる。

 

自分の過去を振り返ってみたら家にはテスタはなかった。使えなくなった電池は適当に組み合わせて使っていたような気がする。無くてもよいものなのかもしれない。 はじめてテスタを持ったのは中学校のときで、技術の授業で手作りしたものを大学まで使っていた。何かと便利だった。やはり小さい時からテスターを使ったほうがいいんじゃないか? 筆者の娘も「おもちゃが動かない電池変えて!」って泣きついてきても乾電池ではなく他の原因ということもしばしば。テスタを教えているところ。

 

今、私が各学校で紹介しているのは秋月電子通商のDT83Bというテスタだ。これが良い。普通のポケットテスタよりちょっと小振りで、プローブは周りに巻けてコンパクトに。ダイヤルはカチカチとオモチャっぽいけどしっかり感触がある。電源スイッチが別になっていて、つけ忘れが軽減。これで600円と低価格。これを小学校から使っていれば、電気の量に実感をもてるし、面白さも感じられるはずだ。

 

大谷翔平選手が全国の小学校にグローブを配布したように、テスタを配れたら、、1個600円のテスターを10台揃えても、きっとグローブ1個にも満たない価格。これで社会全体でもう少し電気やそれで動く機器への見方も変わるのではないだろうか。どなたか一緒に行いませんか?「電気はかろうぜ!」というメッセージで。
と、昨年から悶々としていろいろなところで話をしているお話でした。

 

オリジナルの風力発電教材。数値で見るから小さな電流もよくわかる。

オリジナルの風力発電教材。数値で見るから小さな電流もよくわかる。