大久保雅史(同志社大学)
突然ですが,みなさんは(大学)図書館を利用されていますか.実は私は同志社大学で,研究や教育とは別に10年近く大学図書館の仕事に関わっています.昨今,多くの大学図書館の抱える問題として図書館の狭隘(きょうあい)化があります.図書館は毎年多くの本や雑誌を購入しています.本棚の数は限られているので,年々本を置く場所がなくなってしまいます.解決策の一つとして,本や雑誌の電子化(電子ブック)が考えられますが,このコロナ禍も相まってその利用は急激に増えているようです.ということで,今日は,本のお話,とくに紙媒体と電子媒体について書きたいと思います.
皆さんは,紙の本と電子ブック,どちらを利用されていますか.電子ブックだと,ベッドの中であろうが夜中の3時であろうが,欲しいと思った時に購入できてすぐに読めます.また,何冊もの本や雑誌をノートパソコンやタブレットに入れて持ち運べ,空いた時間にすぐ読めますし,本棚を占領することもありません.近い将来には,幼児期の絵本から今までに読んだ本すべてを即座に読めることができるようになるかもしれません.このように,電子ブックは,良いことずくめのように思われます.
しかし,昨日のことですが,友人二人と今話題の「鬼滅の刃」の話になり,全巻揃えているというので,貸して欲しいとお願いしたところ,二人とも電子版だったので借りることができませんでした.つまり,電子ブックは読む権利を購入しているだけで,本を保有している訳ではありません.この点が電子媒体の客観的に不利な点です.
さて,では私は?ということになりますが,私は紙派です.もちろん,論文などは電子ジャーナルで読みますし,時間がないときに電子ブックを購入することもありますが,基本的には,本棚に並べることが好きな旧人類です.とくに自宅の棚に並んでいる本を見ていると,本の内容や感想だけでなく,手に入れた頃の自分の置かれた状況や気持ちが思い出されます.歳のせいでしょうか,センチメンタルですね.もしかしたら慣れると電子ブックでもそういう気持ちになるのでしょうか.紙の本で想起されるこういった記憶や感情が電子ブックでは得られないかもしれないという不安が,私が電子ブックに移行できない理由かもしれません.今後,電子ブックの利便性だけではなく,思い出も重畳できるような電子本棚や思い出に残る電子図書館ができれば良いなと思いますし,そのような研究設計にも関わっていければと思います.