山本 知仁(金沢工業大学)
先日、松山英樹さんが日本人として初めてマスターズを制覇しました。私も朝方、生中継を見ていたのですが、歴史的な出来事を最後まで見ていたら、もう少しで朝の授業に遅れそうになりました(汗)。その松山選手ですが、スイングを見ると昨年までと違う点があるのに気づきます。松山選手は以前、トップの位置(クラブを振り上げた位置)で少し間があったのですが、それが少なくなり、手がいわゆる「掌屈」の形になっています。掌屈とは、左手を手のひら側に折り曲げる動作なのですが、ここ数年、多くのプロゴルファーが取り入れるようになりました。代表的な選手には、ダスティンジョンソン、コリンモリカワなどがいますが、現在、黄金世代、プラチナ世代、ミレニアム世代が活躍している日本の女子プロゴルフの選手の多くがこの動作を行っています。
この掌屈という動作は、クラブのフェースをシャット(ボールが飛ぶ方向に対し左側に向ける)にする動きなのですが、この形にするとインパクトの位置で、ハンドファースト(グリップの位置がボールより前にある)かつ、体がオープン(球が飛んでいく方向に体が開いている)になり、簡単に言うと、ボールが飛んで曲がらなくなります。松山選手も昨年までは、ドライバーの打球があまり安定していなかったのですが、マスターズでは打球が安定していました。
以前、このような動作をするプロゴルファーはあまりいませんでした。なぜ、ここ数年で多くのゴルファーが取り入れるようになったかというと、道具の進化があります。現在ドライバーのヘッドは、ルール限界の460ccとなりヘッド内の重量配分が調整され、ヘッド自体の慣性モーメントが大きくなるように進化し、ボールが曲がらなくなりました。このヘッドの特性を最大限に活かそうとすると、以前のスイングのようにインパクト付近でヘッドを返す動作をするよりも、直線的にボールに強く当てる方がより合理的な動きになり、多くのプロゴルファーがトラックマンなどの弾道計測機器を通じて、そのメリットを理解するようになったのです。
このように道具が進化して、これまで当たり前だったことが当たり前ではなくなることは、私たちの身近にもたくさんあるのではないかと思います。端的な例としては、スマートフォンが普及することにより、さまざまなことが変化しました。以前、授業中に黒板に書いたことを学生にメモしておくようにと話すと、学生はノートに書いていましたが、今は、カメラで撮影するようになりました。当初、そのような写真を撮っていると、学生にノートに書きなさいと注意していたときもありましたが、今や私も写真を撮る方になっています(笑)。このような変化についていけなくなったら、自分もそろそろ現役を終えるころだなと思っていますが、もう少しはこの変化を楽しんでいきたいと思っています。