伊藤 雄一(青山学院大学)
新型コロナ禍で影響を受けたものはたくさんあると思う.テレワークが推奨され,ホームオフィスが当たり前になり,出かけても緊急事態宣言下では夜の飲み会もなくなり,めっきりコミュニケーションはオンラインのものとなった.2人程度での会食は暗に禁止されてはいないものの,何となく後ろめたさを感じ,マスクを着けたまま,相手の表情も分からず会話するという,少し前には考えられないような状況が当たり前の光景になった.そういったコミュニケーションの中でも,我々大学教員として,学生とのコミュニケーションが最も影響を受けたものではないかと考えている.
研究室の学生とのコミュニケーションではない.これは定期的なオンラインミーティングで何とかなってるし,カメラもオンにすることで表情も分かる.しかし,授業のコミュニケーションはどうか?先生によってはComment Screenなどで学生の反応を見るなど,新しい授業形態を模索している先生もおられるが,私が特に強調したいのは授業以外の大学教員の人となりを伝えるコミュニケーション,あるいは,学生との普段の接し方のコミュニケーションが大きく毀損したのではないかということである.オンライン授業だと終わった途端に一斉に学生がオフラインにならないか?オンデマンド授業だと,そもそも学生は早送りで授業を受けているとも聞く.このような状況で教員の人となりが伝わるのか.
対面授業であれば,授業中の学生の雰囲気に合わせてちょっと冗談を含めたり,ある項目についてその背景を深掘りするなど,ある意味学生の無言の情報から授業展開をしてきたと思う.さらに,授業が始まる前や終わった後の少しの時間の学生との他愛もない会話は,アイスブレイクもそうだが,教員の人となりを知らしめる非常に重要な時間でありツールではなかったか.特に理系で大学院に進学を考えている学生にとっては,研究室配属はある意味人生を変える出来事になる可能性があり,先生との相性を見極めるのはその研究テーマを選ぶのと同様に重要であると考える.だから通常授業でのそんな先生の立ち振る舞いは,研究テーマに加え,研究室配属に対するマッチングの重要な側面であると言える.また,高校生から大学に進学したての新入生にとって,これまで雲の上の存在だった大学の教員を身近に感じるかどうかはこのような授業以外のコミュニケーションも重要ではないかと思うのである.これまで人となりの話を中心に述べたが,それだけではない.皆さんは授業中,学生が乗っていると感じたときに,とある項目について補足という名の深掘りをしたことはないだろうか?あるいは授業を展開しながら新しいアイデアを思いつき,それを披露したことはないだろうか?このような研究者の物事の捉え方,興味の深掘りの仕方こそ,道なき道を行く研究者の生き方そのものであり,授業を通じてその様子を見せることで学生の知的好奇心を刺激し,大学へ来たという実感を沸かせるのではないかと思うのである.
昨年度,私はこの大学教員と学生,特に1,2年生の関係を何とかできないかと考え,インタラクティブなメディアで新しい学生と教員との関係性を創ることを模索してきた.その中で,理系教員(私)と文系教員によって様々な分野の研究者などをゲストに迎えてその知的活動を深掘りするライブ番組を運営してきた.毎月第1・3金曜日の夜10時から実施するので大体大学での8限目からスタートするということから「はちげんめっ!」と名付け,これまで20人の方にゲストとして来ていただいた.
是非ともご笑覧いただきたいと思う.