北村 尊義(香川大学)

 

今年の2月に私は立命館大学から香川大学へ転出しました.単身赴任にするか悩んだのですが,幼い息子のことを考え,「皆で行こう!」ということになり,一家で香川県に移住することにしました.そこからあっという間に半年が過ぎ,いまでは「うどんは噛まずにノドで味わう」というのをなんとなく理解できるようになっております(もちろんまだ噛んでしまう未熟者ですが!).

 

いくら”うどん県”とはいえ,わずか半年程度で私がうどん人間となったのにはワケがあります.2月1日,私は香川大学の構内に初めて足を踏み入れ(新型コロナ対応で採用面接や諸手続きはすべてオンラインでした.またGoToトラベルも中止となり,住居を探すための下見にすら来ることができておりませんでした),Zoom越しでやりとりしていた先生方の顔と対面での顔との雰囲気の違いに戸惑いながら辞令交付式を終えました.その後,個研室や学生部屋を案内してくださり(この時はなぜが建物の外に張り付いている金属製の非常階段のルートを選択され,「え・・・まじか・・・このルートをこれからずっと!?」と思いました…),一通りの説明やら歓談のあとに「お昼ごはんに行きましょう」となりました.

 

「近くのうどん屋さんでいいですか?」

「はい!是非!(わくわく)」

「この辺りもうどん屋さんは多いですか?」

「そうですね.歩けばうどん屋さんに当たります」

 

などと話をしながら,大学構内を出て交差点を渡るとすぐにあるお店に入りました.この先生にとっては行きつけのうどん店のようで,店内に入ると店員のおばさま方に軽く挨拶し,なんと,私を紹介してくださいました.

 

「こちら,新しく同僚になった先生です」

「あら~!ヨロシクね!」(イメージです.こんな感じだった気がします.)

 

その後,店員のおばちゃんが「お近づきのしるしに」と唐揚げをプレゼントしてくれました.そう,ここです!この体験が私を半年に渡って,いえ,現在もこのお店に通わせることになりました.

 

私がコミュニケーション支援研究に取り組む際に注目した書籍に,ロバート・B・チャルディーニ博士の著書『影響力の武器[第三版]』があります.この本は「人から承諾を引き出すためのテクニック(承諾誘導理論)」をまとめて紹介しているのですが,その理論の一つに「返報性の原理」というものがあります.ざっくりいうと,人は何らかの恩恵を施されるとお返しをしなければならない気持ちが働く,という内容の原理です.

 

香川に移住してまだ数日しか経っておらず,緊張の顔合わせ行事,古びた建物の非常階段にカンカン音を立てて上がった先が私の個研室だと知った衝撃(その当時の印象です!いまではすっかり慣れて日当たりも眺めもとても良い最強の居室だと言えます!)…

…短い時間にさまざまなことを体験して疲れ気味の私に優しく挨拶してくれ,唐揚げまでプレゼントしてくれた!!

 

もうメロメロです.このお店に通い続けない理由なんてないです.

 

この体験は承諾誘導理論の「返報性の原理」を紹介するにあたっての好例だと考え,初夏に私が担当した「対人コミュニケーション」という講義で紹介しました.その結果,とてもウケていたようです.講義の最終回で書いてもらった感想文には,

 

「うどん屋さんのエピソードにとても納得しました!私も全く同じ経験があります!しかも現在進行中です」

 

といった内容のものが複数ありました.やるやん、うどん屋のおばちゃん!あなたは『影響力の武器』の達人かもしれない.あなたはそんじょそこらの新聞勧誘員や保険勧誘員なんかより遥か格上ですよ.

 

ちなみに,こちらのうどん店にはもう何度も通ってますが,唐揚げのプレゼントはこの初回以降ありません.

 

現在構築中の仮説ですが,新しい同僚を連れて行って紹介し,返報性の原理の有効性を感じてもらえないと,唐揚げは振る舞われないのかもしれません.拙筆を最後まで読んでくださった皆さま,この仮説を検証したいので香川大学にいらした際にはぜひ私にお声かけください!共同研究しましょう!

 

※下の写真は私が着任日にいただいた冬季限定”しっぽくうどん”と,達人が私に振るった『影響力の武器』のひとつ,唐揚げです.

 

しっぽくうどんと唐揚げ

しっぽくうどんと,プレゼントしてくださった唐揚げ