河野 純大(筑波技術大学)

早いもので、筑波技術大学に着任してからこの4月で20年になります。ご存知の方もいらっしゃいますが、あらためて筑波技術大学の紹介と、最近の担当業務について記します。

筑波技術大学には、視覚障害学生だけが入学資格を有する保健科学部と聴覚障害学生だけが入学資格を有する産業技術学部があります。今年度の初めには保健科学部には111名、産業技術学部には200名学生が在籍していて、視覚障害学生の教育・支援を担当する教員が38名、聴覚障害学生のそれが58名います。教員1人当たりの教育・支援担当学生数は、保健科学部で2.92人、産業技術学部で3.45人と、非常に手厚い教育・支援を行っている国立大学です。

私は着任して以来、聴覚に障害のある学生の教育、他大学で学んでいる聴覚に障害のある学生の支援、研究成果を活用した遠隔情報保障技術による支援、就労している聴覚に障害のある社会人のためのリカレント教育などを担当しています。

昨今、ダイバーシティとかインクルーシブ教育とか共生社会とかが標榜されている中で、筑波技術大学の存在意義は何なのかと、ときどき思うことがあります。国の税金を1年間に約24億円も投入する価値のある大学であるのかと。これを読んでくださっている方は、どのように感じられるでしょうか。1教員としては、目の前の学生や仕事に一生懸命向き合って精いっぱいで、筑波技術大学があって良かったと言ってもらえることをし続けることが大事だと思って過ごしています。

さて、私が15年来担当しているリカレント教育の話を書きます。リカレント教育とは、学校を卒業して就労した後も、必要なスキルなどを学習するために行う教育のことを言います。コロナ前には平日の夜や土日の昼間に東京の貸会議室を借りて、筑波技術大学の教員が講座を担当する形、あるいは専門学校に講師派遣を依頼してその授業に手話通訳や文字通訳の情報保障を行う形で、TOEICなどの資格取得を目指す講座や、キャリアアップにつながる事柄に関する講座などを行ってきました。コロナが始まった後は、オンラインでこれらの講座を行っていて、これまで参加できなかった地域の方も参加できるようになりました。

このリカレント教育を始めたきっかけは、卒業生からの相談でした。終業後に自身のスキルアップやキャリアアップのために学びに行きたいけれども、手話通訳や文字通訳をつけてくれるところがない、と言うのです。この状況は現在でもほぼ変わっていません。こういった声が複数寄せられてきて、年に数回の講座から始めて現在に至っています。

令和3年度は、文部科学省の「就職・転職のための大学リカレント教育事業」に採択され、必修60時間のプログラムを開講しました。すべての授業をオンラインまたはオンデマンドの形で行い、聴覚のプログラムには聴講生も含めると全国から約40人の方が受講しました。規程の時間を履修すると大学から「履修証明書」をお渡しできます。特にやって良かったと思うのは、受講生同士の学びの部分です。例えば、社内に自分しか聴覚に障害のある従業員がいないという方の、自分の聞こえをなかなか周囲に理解されないと言った悩みに対して、他の方の実践について知ることができて良かったと言った声などが寄せられています。

複数の教員やスタッフ、協力して下さったハローワークや就労移行支援事業所の方々とこのプログラムを実施できたことに感謝しています。聴覚に障害のある社会人の学びの機会の拡充や雇用する側の障害への理解啓発などが進んで、いつでもどこでも障害のある人が学べるようになったらいいなと思い、これからも取り組んでいこうと思っています。