西田 正吾(大阪大学名誉教授)

 

私は今年70歳になり、この3月末に7年間勤めた放送大学を定年退職しました。放送大学に来るまでは、電気メーカーの中央研究所に19年、大阪大学に20年間勤務し、システム工学、ヒューマンインタフェースの研究を行ってきましたが、放送大学では大阪学習センター所長として、それまでと全く異なった生涯教育・社会人教育に従事し、多くの新しい出会いと新鮮な感動がありました。ここでは、そのことについて書かせていただきます。

 

放送大学は、日本において広く社会人等に大学教育の機会を提供するという主旨のもと、放送大学学園法に基づき、放送を利用した通信制大学として1983年に設立されました。現在ではBSによる全国放送およびインタネットによる遠隔授業を行うとともに、各都道府県に設置された学習センターにおけるスクーリング(これは放送大学では面接授業と呼んでいます)と合わせて、「いつでも、どこでも」学ぶことができる環境を提供しており、社会人を中心に退職後の高齢者も含め、約9万人の学生が学んでいます。学部は教養学部のみで、学部卒業生は学士(教養)が授与され、さらに2001年に大学院修士課程が、2014年には大学院博士課程が設置されました。

 

私が大阪学習センターに来て、まず驚いたのは、高齢者の方々が頑張って学んでおられることでした。特に印象に残っているのが、初めての面接授業に当時大阪学習センター最高齢の98歳の学生さんが出て来て元気に何度も質問されたことで、「学びに年齢はない」ことを実感して感銘を受けました。これ以外にも、同窓会活動を続けるとともに大阪マラソンの高齢者の部で毎年素晴らしい記録を残しながら名誉学生の称号を取得された方、構想から完成まで半年近くをかけて毎年100号の大きな水彩画を描き関西水彩画展に出展される元学生の方、生まれ故郷の樺太に思いを寄せその記録を残す活動に参画しながら学びを続けた名誉学生の方、85歳を越えても卒業研究に取り組みさらに修士や博士を目指すことを夢見ておられた方、すべてのコースでの卒業論文執筆を目標に頑張っておられる方、・・・・・・挙げだすときりがありませんが、本当に素晴らしい多数の学生さんにお会いでき、学び続けることの重要性を改めて認識した次第です。なお、名誉学生とは、学部の6コースすべてを卒業した学生を学長特別表彰として顕彰する制度で、毎年3月にNHKホールで開催される学位記授与式で学長より表彰されることになっています。

 

また、大阪学習センターの学生の面接授業の受講態度は熱心で、勉学意欲も高く、「席は前から埋まっていく」「授業中に寝る人はいない」「猛烈な数の大阪弁の質問が出る」という状況で、「授業が早く終わるとクレームが出る」「休み時間にも質問の列ができて講師は休憩が取れない程である」こともしばしば起こりました。この点については面接授業を担当していただく非常勤講師や客員教員の先生方も同じ認識を持っておられ、多くの先生方から「教え甲斐がある」と言っていただきました。

 

大阪学習センターは、昨年秋に開設30周年を迎えましたが、開設当初から学生を続けている方もおられます。このように長い間学び続けることは、私にとっては大きな驚きで、様々な機会に長く学んでいる学生の方のお話を聞くようにしてきました。その結果「学びに対するはっきりとしたモーティベーションを持っていること」「社会に対して何か貢献したいという気持ちがあり、それを実践していること」「自分の体力、気力、興味に応じて学びの対象や学び方を変えていること」等がわかりました。

 

私も、放送大学で経験したことを糧として、これからの人生で学びを続けていきたいと思っています。

 

放送大学大阪学習センターの外観

放送大学大阪学習センターの外観
(大阪教育大学天王寺キャンパス内、背後はあべのハルカス)