五福 明夫(岡山大学)
ヒューマンインタフェース(HI:Human Interface)関連の講義において,ユーザのメンタルモデルは,うまく活用すると使い易いHIになるが,不適切に想定すると使いにくいだけでなくヒューマンエラーを誘発する可能性があるので,その利用には注意が必要であると説明している。道路標識は色や形を利用してうまく体系化されているが,理解に苦しむものもあるので,ドライバーのメンタルモデルを推察したい。
円形で青地に白い矢印が書かれている標識は,指定方向外進行禁止の標識であり,諸外国でも使用されているが,見落としなどによる違反が多い。このため,注意喚起の看板が設置されている場合もある。この標識は禁止行為を伝えるための規制標識に分類されている。円形で青地の規制標識には,時間制限駐車区間,自動車専用,歩行者専用,警笛鳴らせなどもある。規制標識には,四角形で青地(一方通行,進行方向通行区分,など),四角形で白地(車両通行区分)もあり,遠くからでも目立つ赤を基本にした標識だけではない。ところが,指示標識(その道路の交通法を伝えるための標識)や案内標識にも,正方形や四角形で青地の標識(停車可,軌道敷内通行可,など)があり,見慣れないと短時間頭が混乱する。Webには指定方向外進行禁止の標識への注意喚起のページが多数あり,一般のドライバーのメンタルモデルが標識の体系の設計者の想定と異なっていると考えられる。ちなみに,警戒標識(注意を促すための標識)は,正方形で黄色地であり,頂点が上下左右に配置されており,統一感があり分かり易い。
車の運転免許は18歳以上でないと取得できないが,道路標識は全国津々浦々に設置されているから,幼少の頃から視野には入っている。中学生くらいまでは,歩行者や自転車に対する標識以外は関係がなく,むしろ信号機の方が道を歩く上で重要であり,色に関するメンタルモデルの構成に大いに影響していると思われる。
信号機では,赤色:進むことの禁止,黄色:止まれ,青色(実際の色は緑色):進むことができるとの意味と教えられる。赤色は,緊急車両のランプや立ち入り禁止の看板など,警戒,危険や禁止を表す色として多用されている。黄色は日本人にとっては,幼稚園児の帽子や小学生のランドセルのカバーの色として馴染みが深く,注意を促す色として定着している。一方,青色は道路標識以外では,統一的な使い方はされていないが,青色には,清潔,信頼,爽やか,冷たいといった感情を伴うようである。従って,色に関して一般人は,赤色は禁止,黄色は注意で,青色はそれら以外の意味に理解していると想像される。
標識において,黄色は特別な場合以外は警戒標識の地の色に用いられており,意味的にも統一されている。赤色は,基本的に規制標識で使われており,標識の形と組み合わせて,禁止(してはいけない),遵守(しなければならない),不可能(できない)の3通りの意味で用いられている。ところが,青色の標識に関しては,規制標識に分類されている標識の大半は禁止の意味であるが,車両通行区分(白地に青字)や進行方向別通行区分などは遵守となっている。これらを「(標識の内容に)従え」と理解すると,整合的に理解できる。しかしながら,指示標識の内の四角形の青地の標識(並列可,停車可など)は可能であることを表しており,標識で示された内容以外が出来ない訳では無い。もちろん,案内標識の方面,方向及び距離は,それに従わなくても良い。ドライバーは標識を色や形で大凡の意味を分類・理解するが,青色標識は意味的統一感が欠けているため,指定方向外進行禁止の標識はドライバーにとってはエラー誘発文脈となり,見落としの原因となっていると思われ,HI分野の工学者としては改善できないものかと考えている。