廣瀬 通孝(東京大学 先端科学技術研究センター/VR教育研究センター)
ヒューマンインタフェース学会の設立は1999年だそうであるが、実はその前身は計測自動制御学会・ヒューマンインタフェース部会である。このグループが活動を開始したのが、1980年代初頭のころではなかったかと思う。手許には1983年の「これからのマンマシン・インタフェース」なるシンポジウム予稿集があり、この辺が活動の原点かも知れない。学会はもうじき25周年であるが、その根っこにはさらに16年の歴史があるわけである。
当時、コンピュータの分野ではOSや言語などの開発が中心の課題であり、使い勝手のような分野は重要だとは言われつつも十分には光が当たっていなかった。コンピュータがますます小型化して、われわれの身体と合体しようかという今日、まさに今昔の感を感じ得ないところである。
著者にとって印象に残っているのは、1989年のシンポジウムで他学会に先がけてVRに関するオーガナイズド・セッションを開催していただいたことである。以降、毎年のヒューマンインタフェースシンポジウムではVRに関する種々のイベントが開催され、初期のVR研究者の議論の場を提供していただいた。ヒューマンインタフェース学会は、現在のVR研究のインキュベータの1つであることは疑いのない事実である。ちなみに日本バーチャルリアリティ学会の発足は1996年であり、子どもの方が親より先に独立した学会になったのは面白い。
ところでヒューマンインタフェースという分野は、人間にとっての使いやすさを考える分野なので、大変広い範囲を守備範囲にせざるを得ない。それだけに、ピリッとした補助線を引いて、それが面白い話題であれば、そこに新参の研究者が集まって来て、それが限界質量を超えると、個別の学会として巣立っていく。それがこの学会の特色であり、懐の深さであると思っている。
もしかしたら、ヒューマンインタフェース学会が子どもを生み続ける学会であるとするならば、学会それ自体は、大きくならないかも知れない。ただ、それはそれで良いではないか。個人的にはそれがヒューマンインタフェース学会の良いところではないかと思っている。
20世紀がひたすら規模の拡大と大量生産を追い求めてきたのに対し、21世紀のパラダイムは明らかに違ったものである。さて、これからどんな子供が生まれるだろうか。今わが国が欲していて、アカデミアに昇格していない研究課題はたくさんある。それは技術的な新しい領域だろうか、それとももっと社会科学を含む領域だろうか、アート的なものかもしれない。
先述のVRにしても、WEB3やDAOなどの分野と合体してメタバースという社会科学的な領域を生み出しつつある。いずれも学術として確立していなければ良いのであるから気は楽だ。新しい動きを楽しみにして待ちたいものである。