安藤昌也(千葉工業大学)

 

「ジャパンマニュアルアワード」という賞があります。取扱説明書やマニュアルのわかりやすさや関連規格への対応などが評価される表彰制度です。最高賞には「マニュアル オブ ザ イヤー」が送られます。この賞は一般財団法人テクニカルコミュニケーター協会が運営しており、マニュアルコンテスト時代を含めると30年以上の歴史があります。私は2016年からこの賞の3次審査の選考委員と最終審査員を務めています。

 

私が審査員として活動し始めた頃から、解説動画が取説の一部として審査の対象に含まれる作品が増えてきました。QRコードを使って動画ファイルへ誘導するものです。映像の利点は、言葉では伝えづらい状況や手順の時間的要素などを効果的に表現できることです。そのため、紙の取説では伝わりにくい情報をよりわかりやすく伝えることが期待されます。

 

2022年、マニュアル オブ ザ イヤーを受賞した株式会社ミツトヨの「アブソリュートリニアスケールAT1100」の取説では、補助動画のわかりやすさと効果が高く評価されました[1]。この映像は、社内の取説制作担当者が開発・設計部門だけでなく、営業やサービス部門のメンバーと協力してシナリオを作成し、映像サンプルを海外の現地法人に提示しながら改良されたものでした。このようなプロセスにより、製品の取り付け方法だけでなく、留意すべき点なども非常にわかりやすく伝えることができました。

 

私が注目したのは、映像を業者に発注したのではなく、担当者が撮影と編集を行った点です。技術の進歩により、映像制作のハードルは非常に低くなりました。そのため、技術者自身が映像を効果的なコミュニケーションツールとして活用するスキルが、基礎的な能力として求められるようになったと私は考えています。

 

このような観点から、私は数年前から「メディアデザイン論」という授業で、取説動画の制作に取り組んでいます。学生たちには、グループごとに折り紙や紐の結び方など、ある種の操作課題を与えます。彼らの課題は、その操作の手順を説明する映像を制作することです。ただし、この課題の評価方法が重要です。別のグループのメンバーにその映像を見せて、映像の3倍以内の時間で正しく操作できたかどうか、また視聴者が理解しやすいと感じたかどうかによって評価します。学生たちは日常的に多様な映像を視聴していますが、数分程度の映像ですら伝わる映像を制作することの難しさと表現の工夫を学ぶことができます。

 

この授業を通じて、私は学生たちに「エンジニアとして、紙と鉛筆のように映像を作成できるようになってもらいたい」と伝えています。「紙と鉛筆」という表現は、少々古めかしいですが、この言葉は私が博士課程の時に映像人類学を学んだ大森康宏先生(当時国立民族学博物館教授)が話されていた「科学者・研究者は論文を書くように映像で表現できなければならない」という言葉になぞらえたものです。確かに、今や研究者には積極的なアウトリーチ活動が求められており、そのためには映像を使った表現が重要になってきていると感じています。

 

私自身も、2022年7月からほぼ毎週日曜日の19時にYouTubeでLIVE配信に挑戦しています。チャンネル名は「UX安藤昌也ら」です[2]。このチャンネルは、UXデザインについて話すコアなコンテンツであり、登録者数はまだ1000人に満たないものの、継続的に活動しています。以前このコーナーで紹介された伊藤雄一先生[3]のような素晴らしい配信ではありませんが、この配信を通じて新たな考えを整理する機会となっています。現在は、配信で話した内容を文章に起こすプロセスを経て、新たにUXデザインの解説書を執筆することを考えています。まさに、映像は「紙と鉛筆」です。

 

[1] テクニカルコミュニケーター協会: マニュアル オブ ザ イヤー2022受賞会社訪問 株式会社ミツトヨ, Frontier, 第17号, pp28-31, 2023(online at: https://www.jtca.org/tc_award/datas/2022MOY_mitutoyo.pdf)

[2] UX安藤昌也ら: https://www.youtube.com/@uxando

 

「メディアデザイン論」の様子―わかりやすく表現するには撮影が重要。何度も試行錯誤する

 

「メディアデザイン論」の様子―操作方法を知らない人に映像だけを手がかりに操作をしてもらい評価してもらう