武藤剛(文教大学)
とある大学教員の平凡な日常です。日々学生からいろんな質問を受けます。新人のころ、最終回の授業後に学生が自室の前で大行列ということがありました。「今日の授業、分かんなかったのかなぁ?」と呑気に思っていると、全員「遅刻と欠席、何回してます?」という質問で拍子抜けした思い出があります。もし「大学教員が受けた質問ランキング」作ったら、絶対上位にくる、あるある質問だと思います。
しかし、最近その質問は、ほぼ無くなりました。コロナ禍をきっかけに、出席管理に学習管理システム(LMS)を使うようにしたので、オンラインで自分の出欠状況を確認出来るようになったからです。LMSで出席管理というと、簡単に代返できちゃうんじゃ、と思うかもしれませんが、リモートの場合、LMSやZoomのアクセスログで視聴時間などをもとに判断できます。対面の場合は、出欠アプリを使います。最近の出欠アプリは進歩していて、スマホの位置情報をもとに出欠判定することもできます。私の学生時代と比べても、代返は難しくなったと思います。
そのコロナ禍も明け、2023年度の授業はほぼ通常運転となりました。昨夏の期末試験も、全て対面で実施しました。その試験中、数人の学生から、試験問題とは無関係の同じ質問を受けました。それが、「名前を教えてください。」です。名前聞かれる時なんて健康診断くらいなので、思わず「え?」ってなったわけです。理由を聞くと、試験の出席票に担当教員名を記入するのに試験中で調べようがなかったんです、と申し訳なさそうに説明してくれたので、なんとなく同情してしまいました。
心当たりはあります。多分LMSです。コロナ禍前もLMSは使ってましたが、教材は紙でも配布していました。授業レポートは、担当教員名入りの用紙で授業中に提出してもらい、それを出欠確認にも利用していました。ソースコードなどオンライン提出物は、(回収が簡単な)教員名の共有ドライブに提出してもらっていました。質問も、教員室に入るには表札確認するでしょうし、メールの場合もアドレス打ち込む時に名前を確認できます。
それらが全てLMSに置き換わったことで、これまで普通に目にしていた教員名という情報は学生の目に映りにくくなったわけです。もちろん、LMSの画面やシラバスには担当教員名は(控えめに)表示されています(図参照)。しかし、履修生がLMSで作業するときに学習と無関係な担当教員名に注意を向ける必要はないので、記憶に残りづらくなったんだろうなぁと、なんとなく思っています。
そんなことがあったので、気になって大学生活の大半をコロナ禍で過ごした4年生に自学科の先生の名前を言えるか聞いたことがあります。案の定、ほぼ全員あの先生そういえば名前何だっけ状態という感じで、さらにマスクしてるから顔もあやふや?という意見も結構ありました。こんなですから、もし全ての授業をずっとオンラインにしたらどうなっちゃうんだろうとか妄想してしまいます。もし、動画に顔を出さないと、Anonymous先生ってことなのかなぁとか思ってしまいます。まぁ、顔も名前も出さないミュージシャン最近多いし、むしろ時代の先端?
話を戻します。教育現場の主役は履修している学生です。その原則に従えば、授業内容という素材をきちんと味わってもらえれば、それでいいと思っています。ただ、例えば「何このクセ強の先生?」くらいの味付けがあるほうが、その授業内容を美味しく食べてもらえるんじゃないかとも思うわけです。そんなわけで、これからは、名前はよく覚えてないけど、せめて「あんな先生いたなー」くらいの記憶に残る味を出せるように心がけようと思います。蛇足ですが、その質問が出た授業、アンケートでは結構好評だったことを最後にご報告しておきます。