長岡千賀(追手門学院大学)

 

小さい子が、絵本の紙を、単純に、めくり続けることがあります。絵本の上下がひっくり返っていることもあります。

 

そうした子の気持ちを、大人にわかりやすく翻訳する試みをしてみました。(保育に関わる研究者の話も踏まえているので、大外れではないと思うのです)発達の初期段階の個人が環境とかかわる様子は、人と人工物のかかわり、さらには人と人のかかわりについて考えるヒントを与えてくれそうです。

 

 

<私たちが絵本のページをめくり続ける理由と、お願い>

 

絵本は楽しいです。

広げることができます。

広げると、さっきまでの(閉じられた状態の)大きさの倍の大きさになります。

一瞬で劇的に大きくなるのです。

閉じるとまた小さくなります。

 

ほかのおもちゃでは、こんなことはありません。

お気に入りのアヒルのぬいぐるみも、おさるのぬいぐるみも、その他のおもちゃも、

普通、大きさは劇的に変わりません。

他のおもちゃと大きく違う、絵本の大きな特徴です。

 

そして、絵本をめくると、

その面にあらわれる色や形がずいぶんと変わります。

さっきまで見えていた色や形とはまったく違うものが急にそこにあらわれるのです。

これも、他のおもちゃではなかなか経験しないことです。

 

こうしたとき、私たちは、自分がモノに働きかけると、

そのモノが変わるということを、とても強く実感します。

しかも、そこにあらわれる色や形はたいていどれも心地よいものですから、たまりません。

ずっとめくっていられます。

 

それから、めくったときに、

ふわっと風がおこったり音がしたりすることがあります。

これも楽しみの一つです。

紙やインクの匂いがちょっとだけすることもあって、楽しいのです。

 

 

こうやって、私たちは、絵本をめくることによって生じる豊かな変化を楽しんでいます。

このときには私たちはまだ、絵本に、読み手をワクワクさせてくれる物語が

書かれていることは理解していません。

まさか、自分の手元にあって、しかも、

いろいろなことが上手くできない小さな自分にでも操作可能な薄い紙束(絵本)に、

何世代にも渡って大人たちが紡いできた豊かな言葉や物語が書かれているなんて、

想像できません。

それはまるで魔法のようです。

そんなことを理解するのはとても難しいことです。

 

 

けれども、ここは大事なことですが、その物語たちを、

これから私たちが大好きになり、すすんで本を読むようになるには、

絵本をめくる活動がとても大事なのです。

大人から見るとメチャクチャなめくり方をしているのでしょうが、実は、

指を器用に操って、ページを1枚ずつめくれるようになるための訓練もしています。

紙の大きさや厚さにあわせた調整のための練習をしています。

この手指の調整の能力は、他のものを扱うときにも役立つことでしょう。

 

けれども、ごめんなさい。まだまだ下手くそなので、ときどき破ってしまったり、

なめてベタベタにしてしまったりすることがあります。

悪気はありません。どうぞ許してください。

 

私たちを見守ってくれている大人たちに、ほかにもお願いがあります。

絵本の扱い方について、自由をください。

絵本を、大人から見て「正しい方向」から見ることを強制しすぎないでください。

どの方向からみても、私たちにとっては面白いのです。

また、大人から見た「前」から、1ページずつ、ゆっくりと見ることを

あまり強制しないでください。

どこからスタートしても、どの方向に進んでも、ずいぶんページを飛ばしたとしても、

1ページずつ文を読んだり丁寧に絵を眺めたりしなくても、やっぱり楽しいのです。

 

 

けれども、私たちは日々成長しているので、まもなく、

絵本に物語が書かれていることに気づくときがくることでしょう。

時期的にそれほど早くないかもしれません。

なので、どうぞ、ゆっくり見守ってください。

そして、その兆しがあったら、うまく気づかせてください。

その時には絵本を読んでください。

お願いします。

 

 

○●———-出版のお知らせ———-●○

データをもとに心理カウンセラーの聴く技術の核心に迫る本、『カウンセリングのダイナミクス――聴く技術の核心に迫る』(長岡千賀・大山泰宏・桑原知子・小森政嗣・吉川左紀子・渡部幹)を出版しました。

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