混沌の時代におけるヒューマンインタフェース
ヒューマンインタフェース学会 会長 高橋 信
遠いウクライナの戦火の映像がテレビに溢れ、コロナ禍という人類への戒めとも思えるような状況が人々の分断を広げている今、ヒューマンインタフェースの役割が改めて問われている。2019年に設立20周年を迎えたヒューマンインタフェース学会(以下HI学会)は、インターネットに代表される情報通信・コンピュータ技術の進歩と共に歩みを進めてきた。インターネットは情報に関する常識を大きく変え、ネット上の自由な情報のやりとりは世界の民主化を大きく前進させたかのように見えた。ベルリンの壁崩壊から33年。世界はDX、IoTという新たなキーワードのもとで、ますます繁栄と幸せを手に入れることができたかに見えた。しかし、今現在の状況、そしてこれから10-20年の国際情勢を考えると、残念ながら、それは幻想だったと言わざるを得ない。自由な情報のやりとりで世界をフラットに繋ぐことが期待されていたインターネットは、同じような考え方を持つ人たちの泡の集合体になり、泡の間の交流は進まず、分断が更に促進されている。サイバー空間はもう一つの戦場となり、ネット上ではFAKE情報を使った情報操作合戦が繰り広げられている。そんな状況を観ていると無力感を感じてしまい、科学技術の進歩なんて少しも人を幸せにしていないのではないかと考えてしまう人も多いのかもしれない。
しかし、私はラダイト(Luddite)ではない。毎年アップルが見せるイノベーションにワクワクして、技術がいつか必ず私たちに幸せをもたらしてくれると信じているが、そこに至るには、まだまだ多くの課題がある。人間と機械の関係を考え、人間中心のシステム、そしてユーザーエクスペリエンスという重要な概念をベースにする本学会の社会に対する役割、そして社会への貢献の可能性は極めて大きいという想いを会員の皆さんと共有したい。
技術と社会との関係性を考える上で今後の大きな課題の一つは、AIとの望ましい関係性の構築をアカデミックな視点から牽引していくことである。特定の能力は極めて高いがコミュニケーションが苦手で、自分の状況も教えてくれない。そんな付き合いにくいAIをどのように使いこなしていくのか。その方向性を明確に示すこと、それが学会創設以来人間と機械の協調のあり方を考えてきた我々HI学会の使命であると確信している。