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ヒューマンインタフェース研究開発のための倫理指針

ヒューマンインタフェース学会

( 2021年11月18日改訂 )

 

 特定非営利活動法人 ヒューマンインタフェース学会では,人を対象としたヒューマンインタフェース研究開発及び実務課題が多く議論されている.ヒューマンインタフェース学会での円滑な議論を活性化するために,本倫理指針を策定し,ヒューマンインタフェース研究開発及び実務分野での人を対象とする研究(人を研究対象とする工学的,医学・生物学的,心理・行動学的研究開発及び実務的取り組みで,臨床上の医療及び治療行為に関わる研究開発以外のものをいう.以下「研究開発」という.)について,特に倫理面から研究開発実施者等が遵守することが望ましい事項を定める.人を扱う研究倫理に関するヘルシンキ宣言では,国内の倫理動向とも合致させることが求められている.このことから,研究開発実施者は,ヘルシンキ宣言の趣旨に沿った倫理的配慮のもと,次の各号に掲げる事項に留意する.

1. 目的
   この指針の目的は,企業,評価団体,研究機関,大学等の組織,あるいはそこに所属する研究開発実施者等が実施する研究開発において,研究対象者と製品開発のための実験・調査(対面に限らず)の対象者(以下,研究対象者と記す)および研究開発実施内容,さらに研究実施者を倫理面から保護することにある.本指針は,この目的を達成するために,研究計画の立案,審査,研究の実施等において遵守すべき事項及び推奨事項,さらに必要となる体制や責務等について定めるものである.
   
2. 研究開発実施者等が遵守すべき基本原則
2.1 科学技術的,倫理的妥当性の確保
   研究開発実施者は,研究開発を計画,実施するにあたって次の事項を遵守する:
(1) 研究開発の内容は,社会的,科学技術的に十分認められ,かつ研究対象者の尊厳および人権を尊重するとともに,研究開発を行うことにより,研究対象者に不利益及び危険が生じないよう安全の確保に十分配慮する.
(2) 研究開発を計画,実施するにあたっては,科学技術的妥当性,倫理的妥当性に十分配慮しつつ,研究を適正に計画,実施するために必要な情報を事前に精査し,これらを反映させた明確かつ具体的な研究開発計画書を作成する.
(3) 研究対象者,研究開発実施者以外の人に影響する研究開発,公共の生活環境等に影響を及ぼすおそれのある研究開発を計画,実施する場合には,これら周囲の活動や生活環境等を阻害せぬよう十分に配慮する.
2.2 研究対象者の人権と個人情報の保護
   研究開発にたずさわる者は,研究対象者が被るおそれのある不利益又は危険等について精査し,研究開発に参加することによって心身の問題や対人関係上の問題が研究対象者に生じないよう真摯に対処する.また,年齢,性別,人種,信条,社会的立場,障がいの有無などの属性(要配慮個人情報)に関わらず研究対象者の人権を尊重する.
   研究対象者に係るデータや情報等を適切に取り扱い,その個人情報を保護する.研究開発を通して知り得た個人情報を正当な理由なく第三者に漏洩してはならない.研究開発実施者がその職を退いた後も同様とする.
 ここで個人情報とは,生存する個人に関する情報である.詳しくは個人情報保護法を参照すること.
2.3 インフォームド・コンセントの受領
   研究開発を実施する場合には,事前に,研究対象者からインフォームド・コンセントを受けることを原則とする.研究対象者が被るおそれのある不利益又は危険等についての説明の内容,同意の確認方法その他のインフォームド・コンセントの手続に関する事項を研究開発計画書に記載する.説明を行う際には,研究開発に関して誤解が生じないように努め,研究対象者が自由意思で研究や製品開発のための実験・調査への参加を決定でき,また自由意思でこの参加を辞退できるよう配慮する.
2.4 代諾者による同意
   インフォームド・コンセントの手続きにおいて,研究実施者は適切な方法や手段で説明することに努め,研究対象者の理解と賛意を得ることが推奨されるが,それでも諾否が確認できない場合や,本人の判断能力の有無が疑われる場合には,保護者や後見人などの代諾者に文書で同意を得る.このような場合であっても,安易に代諾者等による同意で済ませるのではなく,本人による同意・賛意が得られるように説明方法などを工夫すべきである.特に高リスクの実験では慎重に手続きを進める必要がある.
2.5 成果の公表
   研究の成果を公表する場合には,研究対象者の個人情報やプライバシー等の保護に必要な措置を講じておかなければならない.
   観察を映像化する場合は研究対象者の肖像権に配慮する.研究開発発表等で映像を使う際には,誰に対しどの場面を公開するかを研究対象者に示した上で承諾を得る.この際,研究開始前に公開の可能性について説明し,開示範囲等について合意を得ることが望ましい.
2.6 倫理委員会等の承認
   研究実施者及び組織は,研究開発において,実験に参加する研究対象者が不利益又は危険等を被らないよう研究対象者の心身の安全に責任をもつ.特に感覚刺激の強度の設定等の実験条件,実験室等の物理的な環境が研究対象者に与える身体的・精神的影響などについては十分考慮し,慎重に実験計画を立てる.また原則として,研究の実施に先立ち,自らが所属する組織および研究開発が行われる組織の倫理委員会あるいは遵法性に関して責任を担務する者等に,具体的な研究計画を示し承認を受ける.研究開発成果の発表の際には,組織の倫理委員会あるいは遵法性に関して責任を担務する者等の承認を受けていることを前提とし,その旨を著作物等に明記する.倫理委員会で承認を得る場合には,国が示す指針1)もしくは所属組織が定める手順に従うこと.
   ただし,以下の場合は上記委員会若しくは責任を担務する者の判断により,審査の対象外とすることができる.
研究開始よりも前に匿名化された情報・データを用いる研究
個人が特定されない方法(無記名等)によるデータ収集で,個人情報を取扱わないもの
-a) 大学等での授業・演習・卒業研究等の教育の一環として学内でデータを収集し,研究対象者の不利益が生じないように講じられたもの(拒否することによる成績や人間関係への悪影響などがないこと)であり,データや結果を学内のみで使用するもの
-b) 研究責任者や研究実施者のみが対象で自らのデータを収集・分析するもの
他の研究実施機関との協働研究において主たる研究機関においてすでに審査を受け承認された研究
  いずれにしても,研究開発実務に携わる者が人を扱う研究倫理に強い意識を持って実行すべきである.
2.7 利益相反
   研究開発・実務を実行する際,利益相反関連事項についてはその有無及び内容を発表物・著作物に明記する
2.8 指導の責務
    大学その他の教育機関において学生等に対し研究の指導を行う者や,企業において研究開発の統括を行う者は,上記2.1 から2.7までに挙げる事項その他必要な事項を遵守して研究を実施するよう,学生,研究開発補助者等を指導および監督する.
2.8 改廃 
    本指針の改廃は理事会において定める.
   以上
   
   (この倫理規定の策定にあたり,一般社団法人日本人間工学会の許可を得て,『人間工学研究のための倫理指針』を参考にさせていただきました)
1) 文部科学省,厚生労働省及び経済産業省「人を対象とする生命科学・医学系研究に関する倫理指針」(2021年)

 

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