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会長挨拶(2023年)

Why the Future Doesn’t Need Us?

ヒューマンインタフェース学会 会長 高橋 信

 Sun Microsystems社の中核的技術者であり、初期のコンピュータ業界の鬼才といわれているBill Joyが2000年にこのタイトルでWired誌に寄稿した記事は[1]、今でも科学技術と社会の関係を考える上で重要な示唆を与えている。(そんな人知らないという方も多いだろうが、viエディタ、Cシェル、JAVA言語の開発者といえば少しはその功績の偉大さが分かるだろうか。)この中で彼は彼自身が開発の中核を担ってきた高性能な計算機(具体的にはSolaris/OSを搭載したSun Microsystems社のワークステーション)が、人類の将来を危うくする技術の開発に使われうることに対しての強い懸念を表明している。20世紀における大量破壊兵器はNBC:nuclear,biological,chemicalが主流であったが、21世紀においてはGNR:genetics, nanotechnology, roboticsが主流になり、更に知識さえあればこれらの技術は国家単位ではなく小さなグループが利用し悪用されうることを指摘している。彼がこの記事を書いたのは2000年で、その後のAI技術に代表される情報技術は更に速いテンポで進展してきており、情報技術の社会への浸透も広く進んでいる。そのような状況下で、ヒューマンインタフェース分野の今後について、技術の進歩を俯瞰的に捉えて社会に対する影響を今一度立ち止まって考える必要があるのではないかと思う。ここでBill Joyが前述の記事で述べていることと同じことを私自身も繰り返したい。
“I am not a Luddite”
(Ludditeとは産業革命時に蒸気機関の発明により自分自身の仕事が奪われることを危惧し、当時の最新技術であった蒸気機関を打ち壊す運動を行った人たちのことであり、転じて技術の進歩に対して否定的な人のことを意味する。)
 私は1964年に生まれ、トランジスタラジオの小型化に目を見張り、ウォークマンに心酔し、LPレコード→カセットテープ→(エルカセット)→CD→(DAT)→MD→MP3→サブスクという音楽メディアの変遷を体験し、スマホが生まれてここまで進化するのをリアルタイムで体験してきた。このような技術的な発展は確実に我々の生活を豊かにしてきたことは否定しないし、それをワクワクしながら体験してきた私がLudditeでないことは言うまでもない。しかし、情報技術が社会の基本的なインフラとなり、「あったら便利」なものから「なければ生きていけない」という位置付けになりつつある今、そこで使われている技術の進歩の方向性を社会受容という観点から改めて考える必要があるのではないだろうか?技術と人間の接点を研究している本学会の使命は今後より重要性を増すであろう。そこで我々は技術への過度の依存や間違った使い方への警戒を怠らず研究を進めていくべきだと考える。
“Shouldn’t we proceed with great caution?”

[1] Bill Joy:” Why the Future Doesn’t Need Us?”,
https://www.wired.com/2000/04/joy-2/

過去の会長挨拶

2022年 「混沌の時代におけるヒューマンインタフェース」高橋 信

2020年 「ホップ・ステップ・ジャンプ」藤田 欣也 

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